石碑之路 散歩風景6

吉永哲郎

 先のカタカナの歌碑から500m程歩きますと、山名城址との分岐点に高さ170cm、横104cmの歌碑があります。碑には安東聖安揮毫の「遠しとふ故奈の白峰ニあほ時もあはのへ時も汝にこそよされ」の書が刻されています。

 安東は兵庫県出身の芸術院会員です。歌意は「遠い所だという故奈の白峰ではないが、遠い将来はともかく、おまえと逢っている時も逢わないでいる時も、私の心はお前さんからずっと離れないのだよ」と訳されます。

 「故奈の白峰」は、①白山・立山連峰、②草津白根山など諸説があって特定できませんが。「はるかな」という意味を強める比喩表現として、現在地からかすかに見える山脈(やまなみ)を詠みこんだと思われます。この歌の「はるかな」は距離的なことではなく、時間経過の行く末のことを象徴しています。「今だけではない、将来もずっと」という意味です。

 この碑からは山脈は眺められませんが、万葉人の一途な愛する人への思いを感じます。今はスマホのメールなどのやりとりで思いを伝えているといわれていますが、目の前の自然風景に人間の心を含ませる表現を、万葉人のようにはできません。現代人が失った人間の心の再生は、こうした万葉歌碑を訪れ、歌を鑑賞することから始まるのではと、思わずにはいられません。

 山名城址へは別の機会に歩きましょう。この路には大手拓次や山村暮鳥の歌碑など、郷土ゆかりの人の書が鑑賞できます。

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