万葉花木散歩
11・やぶこうじの実
吉永哲郎
季節を追って記してきた草木の花々が姿を見せなくなりました。慌ただしい12月です。現代人は花や野菜の季節感を喪失したといわれますが、僅かに自然に咲く野生の花々に、本来の季節を私は感じます。
初冬の山里の風景が好きで、特に遠くに見える雑木林の稜線が、鹿の柔らかな毛のように見える風景が好きです。時間があれば蛇などが冬眠している時期の枯野を歩きます。急に足元から山鳥が飛び立ち驚くことがあります。この驚きは万葉人も同じだったと思いながら、鳥が飛び立ったあたりに目をやると、赤い実をつけたかわいい野草があります。「やぶこうじ」です。
この雪の消残(きのこ)る時にいざ行かな山橘の実の照るも見む
(この雪が消えないうちに、さあ、山へ行こう。やぶこうじの赤い実が、雪に照り映えて輝いているのを見にいこう)
この歌は大伴家持の歌。単調な冬景色に瞬時のすばらしい風景を求める、万葉人の美意識や色彩感覚に想いを馳せます。
あしひきの山橘の色に出でよ語らひ継ぎて会ふこともあらむ
(やぶこうじの実のように、顔色に出しなさい。そうすればお互いに言葉を交わし続けて、そのうち会えることも)。この歌は春日王の歌。やぶこうじの赤い実のようなかわいい女人、ひっそりと佇むその人に恋する若者の姿を思います。
楚々としたヤブコウジの赤い実(かわいい女人)を求めて冬の枯野へ。
- [前回:10・葎(むぐら)(やぶがらし)]