古典花木散歩
5・続馬酔木(アシビ)
吉永哲郎
万葉集にはアシビの花は10首収録されています。前回紹介した歌から、万葉人の馬酔木への想いを記してみましょう。
アシビは馬酔木と表記し、文字通り毒性をもった木です。アシビには方言が多く、アシビは近畿圏の方言で全国的にはアセビです。方言にはアセミ・アセボ アセブの流れと、アシミ・ヨシミ・ヨシミシバの二つの流れがあります。さて、馬が酔う木、毒性を知る古代人の思いが文字化したといわれ、奈良にアシビが多いのは、野生動物が食さなかったからだといわれています。
吾背子に吾が恋ふらくは 奥山の馬酔木の花の今盛りなり
(あなたに私が恋焦がれるありようは、山奥の馬酔木のように、今真っ盛りなのです)
白くかわいい鈴のような花が、房をなして咲いています。恋人への激しくつのる想いをアシビに託しています。
磯の上に生ふるアシビを手折らめど 見すべき君がありといはなくに
大津皇子の死を悼んだ姉大伯皇女の歌。アシビを見せるべき人は、今はこの世にいない。愛する人への悲しい想いが、アシビに……。
アシビは、恋する人への想いを象徴する花です。
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