古典花木散歩

4・馬酔木(アシビ)

吉永哲郎

 古くから奈良に住む人は、東大寺二月堂のお水取りの修二会<しゅにえ>の行<ぎょう>が始まる頃から春を意識し始めるといわれます。また、京都の人は、紫野の今宮神社の「やすらえ祭り」からといいます。前者は火と水、後者は花の祭りです。この花の祭りは「鎮花祭」で、春先の流行病<はやりやまい>除けの意味をもっています。春先の花粉が飛び交うように流行病が発生し、その時代に生きる人の切なる祈りの姿を思います。現代では春先のスギ花粉鎮花祭といえましょうか。「やすらえ」とは、花の精霊に対する鎮めの意味をあらわします。こうした祭事に春の訪れを古都の人は意識していますが、もう一つ花によって春を意識するようです。それはスズランの花のような白い花房を咲かせるアシビです。
 奈良公園にはアシビの古木が多く繁茂し、特に春日大社参道二の鳥居付近を右に折れる新薬師寺へ抜ける小道があります。「ささやきの小路」といわれています。この小道にアシビの大群落があります。アシビの壺状の花袋を手の甲ではじくと「パチン」と音がするので、土地の子どもたちは、アシビを「パチコ」といって親しんでいました。
 吾背子に吾が恋ふらくは 奥山の馬酔木の花の今盛りなり
万葉集にはアシビの歌が10首載っています。歌の鑑賞は次回で。

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