61.高崎新風土記「私の心の風景」
うぐいす通り
吉永哲郎
道にはいろいろな名称がつけられています。歴史上にでてくる東山道・中山道・三国街道などの古道、これらは近代になると国道となりますが、人の居住範囲が広がるにつれて、道の名称も県道・市道・村道などと増えていきます。またこうした名称とは別に、特色ある住宅地や商業地には「‥・通り」という親しみをもった道もあります。
島崎藤村の「初恋」という詩の最終連に、「林檎畠の樹の下に おのづからなる細道は 誰が踏みそめしかたみぞと 問ひたまふこそこひしけれ」という詩句があります。よく山の中には人が踏み固めた道とは別に、鹿やイノシシなどが通る、自然にできた「けものみち」という道がありますが、この「初恋」の細道は、若い二人が通った逢い引きの場所に通じる、密かにできた「恋の道」のことです。
さて、国道406号線(旧草津街道)の榛名川橋を渡って落合の信号を右に折れ、上室田の里山道をしばらく行きますと、「あらくざわ橋」があります。それを渡り、道なりに上室田の安中榛名湖線の道まで行く途中に、「うぐいす通り」という道路標識をいくつか眼にします。「――通り」という名称は、駅前や商店街などの人混みを思わせますが、この「うぐいす通り」は、春の上室田の里は、うぐいすの鳴き声に満ちあふれ、それを耳にしながら歩く道を、いつしか里人が「うぐいす通り」と口にするようになり、名付けられたと聞きます。
まさに、ここに住む人の自然への優しいこころを感じさせる、通り道です。
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