102.高崎新風土記「私の心の風景」
運動会の徒歩競争
吉永哲郎
昨年九月の猛暑の反省から、今年の小学校の動会は、九月末に行うところが多くなりました。プログラムにはいろいろな演目がありますが、とりわけ徒歩競争の歓声を耳にすると、小学校時代にしばし身をおいてしまいます。
ただ、徒歩競争を心待ちにしている子どもにとっては楽しい思い出になりますが、走ることが苦手の子にとっては、消極的な思いにおちいった思い出となります。特に少子化時代の運動会は、競争の結果が目の前でわかる、個人的な種目に関しては、教育的配慮から各学校ではさまざまに工夫を凝らしていると聞きます。
難しい時代になったと思います。私の小学校時代は、運動会で活躍する友の姿に、教室とは違ったある種の尊敬と羨望を感じたものです。5年生の時です。痩せた弱々しい私が鈍足なのを知っていた担任の先生が、走る前に「哲ッチン、かかとをつけずに走れ」といわれました。一瞬とまどいましたが、いわれた通り思い切り走りました。その結果、ゴールのテープを私が切ったのです。
この瞬間の感覚は今も胸のあたりにあります。運動会の歓声を聞くと、詩人であった担任のその時の笑顔を探しに、時折足を運びます。ポケットに出始めた小さい蜜柑、それも酸っぱいのを忍ばせて。私の母校は市立南小学校。
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