志尾 睦子の映画づくし 10
南極料理人
志尾 睦子
2009年 129分
監督:沖田修一
出演:堺雅人/生瀬勝久/きたろう/他
美味しいものは元気の活力
新しい年が始まりました。今年は巳年。巳年は復活と再生を意味するそうで、新しいことを始めるには良いと言われています。また、「み」を「実」にかけて始めたことが実るという縁担ぎもできそうです。せっかくですから、巳年の機運に乗って、何かが実る良い年にできたらいいなと思っています。寒い寒いと体を縮こませてしまう毎日ではありますが、体も心も伸び伸びさせるように意識を向けていけたら、運気も上がるかもしれませんね。
さて、年初めの一作には、そんな心と体を柔らかくほぐしてくれる、温かな映画をご紹介します。
本作は、海上保安庁から調理担当として南極地域観測隊へ派遣された自身の経験を、「面白南極料理人」シリーズとして刊行している西村淳さんの著書が原作になっています。
舞台は1997年の南極大陸、平均気温マイナス54度、標高は富士山より高い3,800メートルにあるドームふじ基地です。よく知られている昭和基地は沿岸部にあり、ペンギンやアザラシもいますが、そこから1,000キロ離れた内陸の山の中にあるドームふじ基地には、動物はおろかウイルスも存在しないと言われています。見渡す限りどこまでも雪原。そんな基地で生活する8人の観測隊員の日々が、料理人西村の目線から描かれます。
元々派遣されるはずだった同僚の鈴木が怪我をして行けなくなってしまい、急遽代理を言い渡された西村。否応なしに妻と娘と生まれたばかりの息子と引き離される形で、南極へとやってきました。仕事は、毎日3食8人分の食事を作ること。
約1年間の生活のために予め用意される食料品は凍っても大丈夫なものだけ。大量の食材の中には、普段の日本の生活では贅沢品と言える伊勢海老や蟹、牛肉のブロックだってあるけれど、日本と同じように調理ができるわけでもありません。沸点は85度だから麺を茹でてもどうしても芯が残ってしまうとか、ステーキを焼こうにも火力が弱すぎて上手く焼けないとか。そんな様々な課題も、西村は仲間たちと一緒に知恵を寄せ合い、少しでも美味しく、少しでも皆の気持ちが満たされるようにと食事作りに精を出していきます。
自分たち以外は何もない極寒の地で、それぞれが役割を持ち、その使命を果たすために日々を過ごす。8人の越冬隊員の日常には、驚きと哀切がてんこ盛りです。その度に同じ釜の飯を食い、血肉を作る食事のありがたさに触れ、人生の豊かさを積み上げいく彼らの姿には、とても心を満たされるものがありました。
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