志尾 睦子の映画づくし 2
リバー・ランズ・スルー・イット
志尾 睦子
1992年 アメリカ 124分
監督:ロバート・レッドフォード
出演:ブラッド・ピット/クレイグ・シェイファー
解放の先にあるもの
新緑の季節となりました。風が爽やかだと感じるこの季節は、目に映る景色もなんだが一層輝いて見えるから不思議です。緑の鮮やかさと肌を掠める爽やかな風は、この季節の力の源にもなってくれますが、思い浮かぶ景色には川も入ってきます。私には、この季節になると見たくなる映画というのがいくつかあるのですが、壮大な自然を感じられるもの、とりわけ、釣りのシーンが印象的なものにとても惹かれます。子どもの頃は父に連れられて釣り堀によく行っていたので、釣る行為は好きな方だと思いますが、あくまでもそれは釣り堀なので、川の流れはありません。ある種の安心感の元、釣りを楽しんでいた時代が私にはありますが、その外へいったことはありません。川釣りは開放への次なるステージな気持ちが子どもながらにあり、現実では二の足を踏んでしまった。だからなのか、未知なる世界への興味と憧れを映画の中で埋めてしまうのかもしれません。
中でもとりわけ鮮烈な印象として残るのが、『リバー・ランズ・スルー・イット』。アメリカモンタナ州の雄大な自然を背景に、牧師である厳格な父親のもとに育った兄弟の物語を描いています。時代設定は1910年代から始まるのですが、学校に通わない彼らは父親から全てを学びます。読み書きと聖書、そしてフライ・フィッシング。勉強が終わると、一目散に川へ出かけ釣り糸を垂れるのが楽しみ、彼らはそんな少年期を過ごします。やがて成長すると、真面目で優秀な兄・ノーマンは地元を離れ、有名大学へ進学、大学教授の道を目指します。他方楽観的でアクティブな弟・ポールは地元の大学へ進み、相変わらずの釣りを続け幻の魚を追いながら、卒業後は新聞社へ勤め始めます。
ノーマンの大学進学で離れていた兄弟が久しぶりに再会し、これまでの時間を埋めるのもフライ・フィッシングでした。そこで兄は、弟がこれまで情熱を燃やし続けている釣りへの飽くなき欲求と探究心にふれ、その芸術的なセンスに目を見張る事になります。そして、ノーマン、ポールの人生はまた大きく動いていくのでした。
釣りのシーンが何度となく出てきますが、とにかく美しいの一言に尽きます。自然の中に溶け込むように存在する人間は、命の輝きに満ちて見えます。それを見るだけでもこの映画を見る価値は十分にある気がしますが、人生の教訓としても素晴らしい一作です。観終えたあと、そのタイトルの意味にグッとくる物があります。