志尾睦子の映画づくし 1
天と地と
志尾 睦子
1990年 118分
監督:角川春樹
出演:榎本孝明/津川雅彦/浅野温子
春になると見たくなる映画的桜
春の風物詩と言われる高崎映画祭が開幕した3月23日、なんと高崎では朝、雪が降りました。雨混じりの雪でしたが、とても冷え込んだ朝で、春と冬がまだ行き来しているのだなあと思いながら準備にあたりました。私たち地球人の暮らし方が、この気候変動を引き起こしているという実感を持ち、そこへの恐ろしさを痛感しながら、少しでも改善に向けての小さな一歩を意識しようと、改めて思う1日でした。
そして、四季に恵まれその自然の恵みを愛でてきた私たちにとって、桜の開花は待ち遠しいもので、まだかな、まだかなと思いながら映画祭の日々を過ごしました。閉幕を迎える3月末日に一気に気温が上昇し、桜が咲きはじめました。公園や学校に佇む一本の大木も美しいのですが、桜並木の壮観な風景を見ることもまた、心の栄養になるものだなあとしみじみ思うわけです。
実際に見ることに勝るものはないとはいえ、映画の中の風景で得難い体験をするものもあります。自分自身にとって忘れ難い映画体験の一つが1990年製作の『天と地と』。日本映画の一時代を築いたと言われる角川映画で、15周年を記念し、当時にして50億円が投入された超大作です。当時の私は高校生で、映画を観る習慣のない家庭で育ったこともあり、映画に興味は全くありませんでした。それでも、教員をしていた父が映画教室で鑑賞する映画だけは、下見ということだったのか、連れて行かれた記憶があります。
『天と地と』は上杉謙信と武田信玄が激突する川中島の戦いを描いたものですが、戦国時代劇の圧倒的なスケール感におののきました。上杉軍を黒一色、武田軍を赤一色にした色彩の重厚感は圧巻でした。暗がりに浮かび上がる紅葉の神々しさも目に焼き付けられているのですが、中でも一番ハッとしたのが、青空の下に広がる里山の満開の桜。その華やかさにしばし見惚れていたのが思い出されます。映画というのはお金をかけてこんな風に壮大な世界を見せてくれるものなんだと、思った気がします。今でこそ、CGやドローンでいくらでもスケール感は作れそうですが、当時は3千人のエキストラで合戦を再現し、どこまでも続く平野を撮影するためにあらゆる手段を使ったといいますから、作り手の熱意には敬服するばかりです。
季節になると見たくなる一作ではありますが、観るごとに思うのは、映画館の大きなスクリーンで見せることを前提に作られた映画の圧倒的な威力。ザ・角川映画、バンザイ。
- [次回:リバー・ランズ・スルー・イット]