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ブータン山の教室

志尾 睦子

2019年製作(ブータン)110分 
原題:Lunana: A Yak in the Classroom
監督・脚本:パオ・チョニン・ドルジ
出演:シェラップ・ドルジ、ウゲン・ノルブ・へンドゥップ ほか

未来に触れるためにできること

 気がつけば今年も後半戦に突入しています。コロナ禍が落ち着いたわけではないのですが、人々の動きが活発化してきて生きるスピードがまた速くなっている気がします。仕事もどんどん舞い込んで処理に明け暮れている、という方も多いのではないでしょうか。そしてこの猛暑。体力の前に気力が奪われてしまいそうですが、ここは踏ん張って、気分転換と栄養補給を忘れずに、ゆっくりとした日常を心がけたいと思っています。

 何のために生きているのか。どんな人生を歩みたいのか。そんなことも時折しっかり考えるのもいいものです。今回は、暑い夏、気力も奪われそうな時こそ、観ていただきたい作品をご紹介します。雄大な自然と将来に触れることの大事さを教えてくれる素敵な一作です。

 物語の舞台はブータンです。首都・ティンプーで祖母と二人で暮らすウゲンは教員として働いていますが、すでに教師としての情熱を失っています。義務とされる5年間だけなんとか過ごした後は、オーストラリアへ移住し歌手になりたいと考えるウゲンは、仕事に全く身が入りません。そんな様子を見かねた上司から、僻地であるルルナ村への赴任を命じられまました。従うしかないウゲンは、ルルナ村へ向かうのですが、なんとたどり着くまでに徒歩で8日間もの旅路を要することになりました。赴任地に着くまでにかなりの体力と気力を消耗していくウゲンでしたが、先生である彼を尊敬し丁重に扱ってくれる人々との出会いはウゲンにとって新しい感覚が芽生えるものでした。

 険しい山道を歩き続けてようやく到着したルルナ村は標高4,800m、電気も水道も通っていない場所で、都会で現代的な暮らしに慣れきっているウゲンには戸惑いしかありません。とにかく早く任務を終えて、都会に戻ることしか頭にないウゲンでしたが、村人たちは新しい先生であるウゲンを最初から敬い温かく迎え入れてくれるのでした。そうして黒板もノートもない学校での教師生活が始まりました。子供達は、先生が来てくれたことの喜び、学べることの喜びに目を輝かせています。ある生徒は「先生は未来に触れることができるから」と、将来の夢は教師だと言い、ウゲンは思ってもいなかった言葉に心を動かされます。

 大自然の雄大さに抱かれながら生きる時間、その自然と共に生きる人たちの逞しい生命力、全てを敬い大切に過ごす姿勢に、現代人が忘れかけている大切なものが描き込まれている気がしました。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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