ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.54

神様メール

志尾 睦子

2015年 フランス=ベルギー=ルクセンブルク 1時間55分
監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
出演:ピリ・グロワーヌ/ブノワ・ポール・ヴールド/他

既定路線を変えれば世界が変わる

 涼しい風が体を包むようになりました。落ち着かない世の中はいつまで経っても暗雲垂れ込める感じですが、そこには飲み込まれないぞ、と意識して下半期を迎えたいと思うこの頃です。日々の生活を健やかに過ごすことこそが社会の一員としての務めだと改めて思っています。粛々と自分のすべきことを行うには、堅い決意も必要ですが、明るく朗らかな気持ちが実は一番大切かもしれません。今回は、少し肩の力を抜いて、こんな人生感もあるかと楽しんでいただけるように、ベルギーの小粋な作品をご紹介します。

 この物語はブリュッセルのとあるアパートから始まります。10歳のエアはここで両親と暮らしているのですが、実はお父さんが神様、お母さんが女神、そしてお兄ちゃんがイエス・キリストという設定です。アパートの部屋は天上界で、彼らはここから一歩も出ることなく暮らしています。神様はここで世界を創造し、人々の生活をパソコンで操作するようになりました。長き時間をかけて人類の生活を操ってきた神様。最近ではますます性格が悪くなって、気まぐれで天災を引き起こしたり、不特定の人たちに事故を与えたりと、人間たちを弄んでいます。そんな父親に対して強い怒りを覚えたエアは、人間たちを神の呪縛から解き放つしかない、と使命感に駆られます。その方法とは、神様が握っている人間たちの余命を、彼ら自身に知らせることでした。

 エアは父親の部屋に忍び込み、パソコンから全世界の人たちに余命をメールすることに成功します。それを受け取った人間界では、当然大混乱が起きます。残された時間を有意義に生きようとする人もいますが、長い余命を逆手にとって、不死身を証明しようとする人たちまで現れます。思いがけない混乱の世を目にしたエアは、下界に降りて彼らを救う決意をします。

 困った時のアドバイザーは、兄のイエス・キリストです。イエスからヒントを得たエアは人間界で新たに6人の使徒を探し彼らと新しい世の中を作ろうとします。全人類を救うことはできないが、小さな幸せを誰かに届けることは出来ると信じて進むエア。彼女のちょっと変わったサポートは、確かに人々の「既定路線」を変えていくのです。

 原題は「The Brand New Testament」。新訳聖書をさらに新しくする、という意味のようですが、新世代エアの大冒険と閃きが、人間の新しい生き方を導く様はなかなか見応えがあります。そして最後の女神の選択にも、してやられてしまいました。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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