ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.50
世界の果ての通学路
志尾 睦子
2012年 フランス 77分
監督:パスカル・プリッソン
目的を持っていく場所には物語が生まれる
目に映る青葉が瑞々しく、身近な自然を感じるにはとてもいい季節がやってきました。年度はじめの仕事もひと段落し、ペース配分がわかってくるタイミングですから、ここは余裕を持って自然を感じながら心の休息を意識的に取りたいものです。めまぐるしい4月のスピード感をそのままに走りすぎると、疲れがどっと押し寄せてくるから要注意。五月病にならないためにも、自分の体力と気力を客観的に観察して意識を外側に持っていくことも大事です。無意識に何かに没頭することほど、危ないことはありません。目的と意識を明確にして仕事に当たれば、自然とオンオフの切り替えもできるような気がします。そして、大事なのは知らない世界を知り、視野を広げていくことかもしれません。
さて今回は、目的を持って行動する子どもたちの清々しいドキュメンタリーをご紹介します。「学校に行く日常風景」が本作の題材です。ケニアのジャクソン・11歳、アルゼンチンのカルロス・11歳、モロッコのザヒラ・13歳とインドのサミュエル・13歳。それぞれの国・そして彼らが暮らす環境が作り出す、「学校へ行く」という日常は、私たちの想像を遥かに超えて来ます。
ジャクソンは学校へ行くのにサバンナを横断しなければなりません。それは毎日、野生動物の襲撃に遭う危険を伴います。動物たちの息遣いを観察しながら、片道15㎞の道のりを2時間小走りで登校するのです。カルロスの暮らす家は、アンデス山脈の人里離れた場所にある牧場です。里に出るには誰もいないパタゴニアの美しい平原を抜ける必要があります。片道18㎞を馬に乗って登校です。アトラス山脈の谷合で暮らすザヒラは、月曜日の明け方に家を出て、ゴツゴツした山道を上り下りしながら22㎞離れた学校へ行きます。そして金曜日まで学校の寮で暮らし、その夜村に戻ります。通学時間は片道なんと4時間。足に障がいを持つサミュエルは、家族お手製の車椅子に乗って、弟たちと一緒に学校へ。片道4㎞の道中は毎日ハプニングだらけです。
印象深いのは、どの子たちも生き生きとし、目が輝いていること。致し方ない環境で仕方なく日々を過ごしているのとは訳が違います。彼らには、学校へ行くという明確な目的があり、それは確実に自分たちの未来につながる時間だと、彼ら自身が気づいているのです。
世界は広く美しい。それを感じるだけでも、視野と世界が開けてくる気がします。明日からの通勤路が違った景色になるかもしれません。
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