ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.48

陽のあたる教室

志尾 睦子

1995年 アメリカ 
監督:スティーヴン・ヘレク
出演:リチャード・ドレイファス/グレン・ヘドリー/ジェイ・トーマス/他


向き合うことで見えてくる新しい世界


 麗らかな陽気が続く時分になりました。また新しい春がやってきます。この一年はコロナ禍に見舞われ、思うようにいかないことも多くあったと思います。その一方で、そうだったからこそ見えてきたこともあった気がします。今まで考えもしなかった観点に気がついたり、新しい手法を見つけたり。苦しい環境下でもとにかく前を向いてみる事で、新しい出会いを掴むことが出来たり、新しい経験の第一歩を着実に歩んでいたということもありそうです。こんなはずじゃなかった、と思っても、受け入れることから始まる出来事もあるのだと思います。
 さて今回は、そんな人生を垣間見せてくれる作品をご紹介します。

 物語の始まりは1965年。30歳になるグレン・ホランドは作曲家として大成する夢を抱くピアノマンです。バンドの一員として各地を回っていましたが、収入は微々たるもので、長年付き合ってきた彼女ともその一歩先を踏み出せないでいました。そんな時、音楽教師の話が舞い込みます。定職を得て家族を養うことを最優先で考えたホランドは、授業以外は作曲活動に時間を費やせるだろうと踏んで、音楽教師になる道を選びます。期間は4年間。作曲家になれたらすぐに辞めるつもりで。

 実際に教師を始めてみるとホランドの思惑は大きく外れていきます。授業を難なくこなしたところで、作曲家への道が近くなるわけでもありません。音楽に全く興味を示さない生徒たちを前にホランドは悩みます。音楽はこんなにも素晴らしいものなのに、どうして彼らにそれが伝わらないのだろうかと。ただ漫然とカリキュラムをこなすことでは駄目だと分かったホランドは、どうやったら生徒たちが音楽を好きになるのかと考え試行錯誤していきます。

 生徒たちに歩み寄った音楽の授業は彼らの心を掴み、ホランド自身の心を変えていきます。4年があっという間に過ぎ、ホランドの教師生活は深みを増し充実していきます。時には教師生活にのめり込むあまりに家族を顧みず不和が生じる場面も出てきますが、そんなわだかまりも音楽と真摯に向き合うことで解けていくのでした。

 夢を捨てきれないまま条件面だけで教師になったホランドが、教師としてどんな道を歩み、その道を切り開いてきたのか。アメリカの時事も織り交ぜながら描き出される一教師の30年間は色濃くそして人生の奥深さを感じさせます。どんな時でも、目の前のことに向き合えば掴める何かがあると教えてくれる一作でした。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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