ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.47

シェフ 三ツ星フードトラック始めました

志尾 睦子

2014年 アメリカ 115分 
監督・主演:ジョン・ファブロー
出演:ソフィア・ベルガラ/ジョン・レグイザモ/他


おいしい音は幸せを運ぶ

 今年は例年よりも早く春一番が吹きました。季節のそんなニュースに少し心が弾みます。肌を優しく包む風もいいものですが、何かが変わる予感を含んだ強めの風があってもいいですね。重苦しい世の状況を爽やかに吹き飛ばしてくれることを願うばかりです。とはいえ、風が吹いただけでは物事は好転しません。その後をどう形作るかはやはり自分の気持ち次第。風が吹いた後にすぐ動ける体力と自分の信念はいつも心に置いておきたいものですね。

 さて、今回はそんな気持ちにさせてくれる一作をご紹介します。

 ロサンゼルスの一流レストランでシェフとして働くカールは、寝食も忘れるほど料理に没頭する気鋭の料理人。料理に一途すぎるのも一つの理由で数年前に離婚、一人息子のパーシーと会える時間を楽しみにしながらも、つい料理優先になってしまいます。パーシーはそんな父を理解しながら、少し寂しく思っています。

 ある時、高名な料理評論家が店に来ることがわかり、カールは特別メニューでもてなそうと張り切ります。しかし定番メニューを手堅く出すことにこだわるオーナーに、いつもと同じメニューを出すようキツく言われてしまいます。渋々従ったカールでしたが、新しい試みを期待して来店した料理評論家にとってそれは逆効果となり、酷評されてしまいます。自分の意に沿わないことをした後悔があっても、料理そのものを侮辱されたことに納得いかないカールは、料理評論家と大揉めとなりSNSは大炎上、ついに店を追い出されてしまいます。

 職を失ったカールを心配した元妻のイネスは、故郷のマイアミにパーシーと3人で行こうと誘います。イネスはカールに雇われシェフではなく、彼らしい料理を出せる場所で仕事に励んでほしいと願っていたのです。イネスの提案でフードトラックを譲り受けるカールでしたが、あまりのオンボロさとシェフとしてのプライドが邪魔をして気乗りがしません。そんな中、カールは街中でふと食べたキューバサンドのおいしさに感動します。食べる人たちの喜んだ顔が見たい。原点に立ち返ったカールは心機一転、パーシーとともにフードトラックをピカピカに磨き上げ、キューバサンドの移動販売を始めます。

 料理に対する努力と敬意、そしてシェフとしての信念が、カールの新しい旅路をサポートします。キューバサンドのカリッ、サクッの音が響くたびに、元気に笑顔になっていく、温かな一作です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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