ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.18

エール!

志尾 睦子

2014 フランス
監督:エリック・ラルティゴ
出演:ルアンヌ・エメラ/カリン・ヴィアール/
フランソワ・ダミアン/エリック・エルモスニーノ


人の想いを 聴く 方法

 季節は巡りだいぶ秋めいてきました。高崎音楽祭の季節です。秋の深まりは、音楽に酔いしれる時間を格別にしてくれる気がします。せっかくなので、こんな気候にぴったりくる、音楽をモチーフにした映画を今回はご紹介します。
 舞台はフランスの田舎町。酪農を営むベリエ家の長女・ポーラは高校生で、家業を手伝いながら毎日を忙しく過ごしています。ポーラには両親と弟がいて彼らは聾唖者のため、家族の生活や仕事上のやり取りは全てポーラがサポートしています。電話も販売員との取引も両親の意向を聞いて、彼女が交渉します。ポーラは小さな頃からそうやって家族と社会のコミュニケーションを取り持ってきました。彼らはとても仲が良く、もちろん時折激しく喧嘩もしながら、絆の深い温かな家族です。
 ある日ポーラは学校で、ひょんな事からコーラス部のオーディションを受け、そこで音楽教師のトマソンから歌声を褒められます。思いがけない言葉に、戸惑いながらも喜びを感じるポーラは次第に歌うことに魅了されて行きます。家族との時間を最優先して生きてきたポーラにとって、自分の気持ちのままに好きな事をする事自体が初めてのこと。その楽しさは、一層彼女の才能を開花させて行くのでした。
 そしてトマソンは、ポーラにパリの音楽学校へ進学する事を勧めます。しかしそれは、ポーラにとって簡単な決断ではありませんでした。ポーラがいるから成立してきた家族の形が、彼女がいなくなると崩れてしまうからです。自分の立場を考えると夢は諦めなければいけない、でも歌の道を、自分の道を歩きたいという気持ちもまたポーラには芽生えていました。一方、ポーラの歌声が聴こえない家族は、その才能を理解することも信じることもできずに戸惑います。夢と現実を前に、どうやって生きていくことが互いの幸せとなるのか、そして自分の幸せにつながるのか、彼らはそれぞれの立場で悩んでいくのです。
 大切な人だからこそ、そして、わかりあいたいからこそぶつかり合うバリエ家の人たち。社会構造やバリアフリーについてなど色々と考えさせられる側面もありますが、この物語の根幹を支えているのは、想いの伝え方です。ここでは音楽がその想いを伝える手助けをしてくれます。それぞれの心を歌声が繋ぐように、きっと、想いを伝える方法は人によって様々な形があるはずだと思わされました。
 秋の夜長、美しい歌声に心を開いてみたら、自分なりの想いの伝え方が見えてくるかもしれません。

高崎商工会議所『商工たかさき』2018年9月号

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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