ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.7

ようこそ、アムステルダム国立美術館へ

志尾 睦子

2008年 オランダ 120分
 監督:ウケ・ホーヘンダイク

3歩進んで2歩下がり、上を向いて歩く

 今年も残すところあと3ヶ月。政界は混迷、波乱な秋となっていますが、そんな中でも季節の移ろいを楽しむ気持ちは持ちたいところです。余裕を持って周辺を見渡しながら先へ進むのか、焦るばかりに目の前のことだけを見て突き進むのかではその後に雲泥の差がでるというもの。いつも目の前の一歩が限りなく続く未来への一歩である事を忘れずにいたいものです。今回はそんな視点を呼び覚ましてくれる作品をご紹介します。
 本作は、2004年から2014年まで続いた、アムステルダム国立美術館の改築工事が題材です。アムステルダム国立美術館の歴史は古く、1800年にさかのぼります。オランダ総督ルブランが開いた展覧会を基礎として始まり、現在の場所に移転したのが1885年です。これまでも改修、修復を繰り返しながら歴史をつないで来たわけですが、2004年に美術館を閉鎖した大規模改修工事が行われました。4カ年計画で始まったこの工事、始まった途端にトラブル続きで最終的には10年の月日を費やしています。2014年にようやくリニューアルオープンを果たしましたが、その間一体何があったのか、が2本の映画に記録されました。
 本作はその1作目で、改修工事の初期を捉えています。「みんなのための美術館」を目指し、国民の誇りであるこの美術館の大改修工事は始まります。皆美術館の新たな未来に思いを馳せ、情熱を持ってこの工事を進めていくのですが、建物の中心を貫く自転車道を巡り、その改築案が市民の猛反発を浴びてしまいます。館長・学芸員・官僚・市民それぞれの立場からの意見は正面衝突、どうにか折衷案を出そうと方針も二転三転、挙句工事は中断してしまいます。一方舞台裏では、最高の状態で美術品をお披露目できるようにと、それらの修復や新企画に心血をそそぐ人々は、改築工事が遅々として進まぬ中で不安を抱えながらも努力を惜しみません。
 それぞれの熱量は凄まじく高いのですが、向かう先が皆バラバラ。猪突猛進では、大事なものを見落とすこともありそうです。誰かがこれを統率し、向かうべき道を示さなければなりません。その命題は他でもなく「なんのための改修なのか?」「誰のための美術館なのか?」。1歩進んだら立ち止まり、その事を考え、100歩先の景色を見る。その大事さをこの映画で再確認しました。
 気になる騒動の結末は、『みんなのアムステルダム国立美術館』(2014)で見届けられますので、どうぞご安心を。(2017年10月:商工たかさき)

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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