ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.5

『百万円と苦虫女』

志尾 睦子

気持ち切り替えルールのススメ

 盛夏の候。みなさま暑い夏をいかがお過ごしでしょうか。夏休みは取りましたか? 忙しくてそれどころではないという方も多いと思いますが、暑い夏はそれだけで体力を消耗しますから、身と心の栄養補給に束の間の休息は必要不可欠です。また、お休みは何より心のリフレッシュに役立ちます。普段忙しくしていると、心も体も余裕がなくなってしまい、ほっと一息する方法すら分からなくなってしまうもの。そうなる前に定期的に、自分メンテナンスができるといいですね。
 さて、今回は、リフレッシュと再生をテーマに少し変化球な作品をセレクトしました。女の子の青春物語がベースではありますが、ここには「気持ち切り替えの極意」が隠れています。
 主人公は20代前半のフリーター鈴子です。短大卒業後、就職できなかった彼女は実家暮らしのままアルバイト生活を送っていました。自立しようと思う彼女は友達とルームシェアして暮らすことを決めるのですが、これが思わぬ事件を引き起こし、なんと前科がついてしまいます。一旦実家に戻ったものの、中学受験を控えた弟もいるしで、鈴子は家族に迷惑をかけられないと意を決し「百万円貯まったら家を出て行く」と決めます。
 かくして百万円を貯めた鈴子は家を出て、自分の事を全く知らない人たちの土地へと足を向けます。自分を変えたい、リセットしたい、と実家から逃げた彼女は新しい土地で仕事を見つけ、住居を見つけ、新しいコミュニティを築きます。面白いのはここからで、彼女はまた、100万円を貯めると次の土地へと足を向けるのです。それが繰り返されていきます。前科者と知られたら嫌われてしまうに違いない、というマイナス思考故の根無し草生活の始まりなのですが、100万円貯めたら次へ行く、という「ルールの遂行」は、内気で気弱な鈴子をおのずと次へのステップへ押し出しているのです。
 それぞれの場所で培った経験や自分の心の鍛錬は場所を変えるごとに少しずつ、新しい鈴子を作っていきます。そうして彼女はある土地で、大学生に恋をします。誠実で優しい彼ですが、次第に彼は鈴子にお金をせびるようになり、彼女は100万円を貯めないうちに、ここを去ろうと決意をするのです。
 さて、鈴子の次なる道はどのように進んでいくのでしょうか。
 鈴子のルールは若いゆえの特権と言えますが、気持ちの切り替えをするためのルールを自己に課しておくというのも、忙しく働く現代人にとっては有効な気がします。人生の休息を確保するために、活用してみてはいかがでしょうか。(2017年8月:商工たかさき)

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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