ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.3

『サマーウォーズ』

志尾 睦子

2009年 監督:細田守
声の出演:神木隆之介

インターネットの罠、
人海戦術の巧妙


 インターネット社会の進化には目覚しいものがあります。今やありとあらゆるものがインターネット接続で機能しています。社会的機能のIT化が進む中で、個人レベルでも、スマホやパソコンで世界中と繋がり、なんでもできるようになっています。便利で合理的とも言えますが、同時に危険を孕んでもいます。それを実に鮮やかに教えてくれたのが本作です。
 主人公の小磯健二は高校2年生。数学オリンピックの日本代表にあと一歩届かなかった、という理系男子です。夏休み、パソコンにめっぽう強い健二は友人とともに、巷で流行っている「仮想世界OZ」のメンテナンスのバイトを始めます。OZはインターネット上で構築される世界で、人々はアバターという自分のキャラクターを操ってその世界で「生活」します。ショッピングやゲームのみならず、納税や行政手続なども行えるのですが、個人情報や管理権限については世界一安全と言われるセキュリティで守られているため、世界中の人たちがこの「OZ」を利用しているというわけです。
 さて、ある日のこと健二は憧れの先輩・夏希から一緒に夏希の実家に行く、という新たなバイトを持ちかけられます。由緒正しい陣内家に生まれた夏希は、すでに後継問題に悩まされており、90歳になる曽祖母・栄に婚約者を紹介することになっていたのです。画して、健二は婚約者のふりをして、26人の親族一堂が集まる陣内家に数日滞在することに。
 その夜、健二の携帯に謎のメールが届きます。羅列する数字を何かの問題だろうと解いてしまった健二ですが、何とそれは仮想世界 OZの管理権限を奪取する暗号だったからさあ大変。OZは人工知能に乗っ取られてしまい、現実社会が大混乱してしまいます。
 ここからIT社会に生きる天才高校生のハイテクな戦いが始まるわけですが、この映画の見所は、そこにITとは縁遠い曽祖母・栄を中心とした陣内家の面々のアナログな生活感が、そのハイテクな戦いの一役を担うところです。アナログな生活感は、人の生きる姿勢の根幹を作るものなのだと思い知らされます。古き良き日本の大家族の姿、しきたり、おもてなしや思いやりといったface to faceの人付き合いは、最強の武器になるのです。
 2009年の作品ですが、今観ると現在の日本、ひいては世界の状況を彷彿とさせるシリアスな視点にも驚嘆し、新たな発見を感じます。(2017年6月:商工たかさき)

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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