ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.1
『或る夜の出来事』
志尾 睦子
1934年 アメリカ
監督:フランク・キャプラ
何事も原点を探るべし
ビジネスパーソンにお薦めする映画シリーズ、1作目はハリウッドの名作です。様々な名画の元になり、人々の生活やライフタイルにも影響を与えたと言われる作品です。
主演はミスターハリウッドの異名を持つ、クラーク・ゲーブルとハリウッドのコメディエンヌ、クローデット・コルベール。クラーク・ゲーブルといえば、『風とともに去りぬ』(1939年/ヴィクター・フレミング監督)のレット・バトラー役が有名ですが、彼の出世作はこの『或る夜の出来事』です。デビュー当時映画では鳴かず飛ばずだった彼は舞台で力をつけ、再びハリウッドに進出します。ハンサム顔だけれども、強面なイメージのクラーク・ゲーブルは悪徳者の役柄に当てられることが多く、ラブコメディを目指した『或る夜の出来事』での起用は注目を集めたようです。狙いは的中し、ゲーブルは世の女性たちをこれまでと違った魅力で虜にしました。また、クローデット・コルベールも本作でコメディエンヌとして頭角を現し、その後しばらく続くハリウッドのロマンティックコメディには欠かせない人になりました。2人は本作でアカデミー賞主演男優賞・女優賞を獲得しています。
また、『或る夜の出来事』は映画史的にも重要な位置付けの映画で、一つのジャンルを切り開くことに成功します。これはスクリューボールコメディと言われ、1930年代から40年代にかけてハリウッドで大流行りしました。風変わりな男女が出会い、騒動を巻き起こしながら、恋に発展するというスタイルです。性的描写がないのも一つの特徴で、そこに行き着くまでを面白おかしく描き出すところに映画の醍醐味が集約されたものでした。
大富豪のご令嬢・エリーが恋人との結婚を父親に反対され、船に軟禁されているところから物語は始まります。船に軟禁とはそれだけで普通じゃないですが、そこからエリーは泳いで逃げ出すのです。もうこれからの大騒動を予見しているというものですね。恋人のいるニューヨークを目指す中、エリーが偶然出くわすのが、新聞記者のピーターです。世間ではエリーの失踪は大ニュースになっていますから、ピーターは、これはいいゴシップネタになると踏んで、彼女と行動を共にします。
世間知らずのお嬢様と、ならず者の新聞記者が織りなす珍道中。『ローマの休日』の元はこんなところにありました。ぶかぶかの紳士物のシャツを着る女子の図や、ピーターがヒッチハイクで苦戦する中、エリーが瞬時にして車を止めて見せる場面など、後の映画で見たな、という場面がたくさん出てくるはずです。男女の一線を一枚の毛布で描写する演出などは、時代を超えて秀逸です。
デキル人は、「発展形よりまず原点」、ということでこの映画はお薦めです。(2017年4月商工たかさき)
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