高崎のたたずまい 7

岡醤油醸造株式会社

旧中山道沿いで117年を迎えるたたずまい

 明治中期の木造二階建て瓦葺の建物が、今も常盤町の旧中山道沿いで当時の姿を伝える岡醤油。高崎から板鼻、安中、松井田、横川へと歴史散歩する健脚達も思わず足を止めるたたずまいだ。その風情に惹かれた映画関係者からロケ地の依頼も多いという。
 暖簾をくぐり、開け放たれたガラス戸を入ると、タイムトリップしたかのような店内にひんやりとした空気が漂う。醤油、味噌、醤油味のアイスや甘納豆、商号が印刷された前掛けやTシャツなどが並び、その奥の木製のショウウィンドウには年代物のブリキや木製看板が飾られている。営々と受け継がれてきた年月と新商品の共演に商人魂も感じられる。
 従業員らが寝泊まりした屋根裏部屋や調理用の竃、土蔵の古いラベルや大福帳などは博物館の収蔵品のよう。裏手の穀蔵には大豆を煮、小麦を炒るためのボイラーがあり、赤煉瓦の煙突は、今や地域のシンボルになっている。明治30年頃造の初代の煙突は、昭和初期の地震で倒壊、昭和5年再建と和紙の設計図が伝えている。
 岡醤油醸造株式会社八代目の岡 統治さんは、滋賀県出身。「典型的な近江商人です。滋賀を拠点に各地に会社を起し、店に支配人をおいて切り盛りさせる。中学卒業と同時に丁稚を店に送り、後に支配人になる者もいます」。
 初代岡忠兵衛は天明7年(1787)、大間々で醤油醸造業を起業。高崎工場兼店舗は明治30年(1897)に創業した。一升瓶に量り売りで醤油を販売、味噌は山盛りに盛られた。岡さんは29歳の時、先代に従い勤めを辞め高崎へ。当時、酒屋が2軒、八百屋や薬屋もあった。70代のOBからは「近くに手仕事する工場があり随分女性が行き交っていた」とも聞く。岡醤油が醤油製造を止めたのは11年前、住宅街ということもあり煙の懸念もあった。醤油造りは大間々の工場で一手に、二百有余年受け継がれた木桶仕込の天然醸造で作り続けている。
 「修繕は赤城の宮大工さんにお願いしています。傷みや傾きもありますが、できるだけ長く使いたいですね」と話す岡さんは、国道17号から赤い煙突を見つけると、「我が家に帰ってきたな」と感じる。建物と醤油の歴史は岡さんにとって、掛け替えのない宝である。

●岡醤油醸造株式会社
高崎市常盤町5