高崎のおもてなし 3

居場所作りでおもてなし

志尾 睦子

 中居町にある「絵本と童話 本の家」は群馬県内唯一の子どもの本専門店。昨年30周年を迎えました。木の温もりのあるかわいらしいお店構えで、中に入ると飼い犬のキリコが出迎えてくれます。本棚にはびっしりとカラフルな背表紙が並び、棚の上にもおもちゃがたくさん。脇には背丈の低い広テーブルとイスがあり、積み木やパズル、色んなおもちゃが所狭しと置いてあります。子どもだけでなく大人も思わず遊び出してしまうほどで、会話が弾む空間です。奥へ進んだところに手前と少し趣の違う書斎のような部屋が広がり、本の他にオーガニックのコスメや雑貨が並びます。この一角は「本の家」を経営する続木家の双子の娘・長女あかりさんがアルバイト代をコツコツためて改装したスペース。あかりさんは大学を卒業後、2002年に家業を継ぎました。本の家に入って、先ず最初の大仕事がこの場所作りだったようです。
 家業を継いだ理由を問うと意外な答えが返ってきました。「うちのお店みたいなところ、どこにでもあると思ったら他になかったから」と笑います。「本の家に集うお客様は皆優しくて、お店の雰囲気はいつも和やか。こういう場所にいたいと思った」とのこと。
 本の家は、街のサロンのような場所。心に寄り添う本選びはもちろんですが、子育て世代のお母さん方の相談に乗ることもしばしば。気がつけばお客様同士が仲良くなっていたり、いつのまにかテーブルには手料理が並んでいたりする。
 母・美和子さんのアットホームなおもてなしが、年代問わずに人を集わせてきました。だからこそ、あかりさんが目を向けたのは、その時の気分でマイペースに過ごせる空間造りでした。美和子さんが甲斐甲斐しくお客様をもてなすコンシェルジュなら、あかりさんは空間プランナー。小さな店舗内ながら、静と動の趣の違う空間が共存しているのはとても素敵な仕掛けだと思いました。
 そんなあかりさんは、ドイツの老舗玩具メーカーケルナースティック社が展開する大型遊具の日本代理店PINOCOMPANYも運営しています。ケルナー遊具は危険予知能力や事故回避能力の向上を目指した斬新なデザインが特徴で、2年後に開園予定の観音山公園に設置されます。カッパピア跡地は、高崎の子どもたちが遊んで来た土地の記憶が詰まった場所。あかりさんはその想いを大切に受継ぎたいと考えています。ただいま設置に向けて奔走中。遊具でコーディネートされるおもてなし空間に、期待が高まります。

●絵本と童話 本の家
所在地:高崎市中居町4-31-17
電 話:027-352-0006

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。