一人ひとりに合った健康的な靴づくり
(2018年10月29日)
株式会社楽歩堂
乞われて出店、全国に20店舗
日本橋髙島屋、阪急うめだ店、近鉄あべのハルカス店など、小売業のあこがれの売場への出店をはじめ、全国に20店舗を展開する。創業以来、コンフォートシューズ(足の健康を考慮してつくられた履き心地の良い靴)を取扱い、フォーマル、カジュアル、スポーツなどあらゆる分野で、健康と機能面を徹底的に追求し、ファッション性にもこだわった製品が店頭に並ぶ。欧米ブランドが6割、自社ブランドが4割の構成比。自社ブランドの開発には、日本人の足や体質、靴の着脱などの生活習慣、メーカー都合の品切れや廃盤などへの対処等、日本のお客様のニーズに確実に応えたいという想いがある。
「自ら県外に出店したのは、路面の新宿御苑店。高い発信力を求めてバイヤーなどプロの目に留まりやすい場の確保が目的でした。徐々に弊社の知名度が浸透すると、出店のお声がけをいただくことが多くなり、それに応じて店舗を展開してきました」。“足と体”の健康を考える靴店は、科学的アプローチによる問題解決力でニーズを拡大している。
靴屋のアイデンティティを求めて
渋谷社長は、高崎市田町通りの履物屋の三代目として生まれた。祖父が下駄屋、父は革靴屋を営み、渋谷社長は父の下でバイヤーとして働いた。当時、人気ブランドの革靴やスポーツシューズなどを店頭に並べれば、お客様は喜んで購入し、品切れなら他店で購入する。こうした状況に、靴屋のアイデンティティについて深く考えるようになったという。
その結果、靴屋ならではの知識や技術、ノウハウを蓄積し、クオリティの高い自社ブランドを創造する。そして、社員がビジョンや誇りを持って働くことができ、成長に見合った報酬を得られるビジネスモデルの構築を目指し、1997年1月に㈱楽歩堂を設立した。
人はそれぞれ、足の形や歩き方も違うし、生活状況に合わせて靴選びも変わってくる。だからこそ、靴のエキスパートである靴屋は、科学的な手法でお客様一人ひとりの足を測定し、データに基づいた靴選びとインソールの製作を通して、個々の体と足にフィットする靴を提供する必要がある。
楽歩堂の各店舗では、足の採寸、歩行の視診、足底の測定(3D)、問診や触診、電子センサーシートによる歩行・足底圧分析などを丁寧に行っている。
整形外科医も太鼓判 提供するのはアインラーゲン
同社の靴づくりの根幹をなし、足と体にフィットする靴の実現に欠かせないのが「インソール(中敷)」だ。靴文化を牽引するドイツでは「アインラーゲン」といい、足裏の凹凸形状に合わせた「中敷」を指す。アインラーゲンは、足の偏った負荷や圧力を分散し、正しくバランスの良い歩行を導く。また、変位した足の矯正や状態を支え、麻痺や欠損した足の残存機能を活かし、能力を高めるという理学療法的定義がなされており、楽歩堂の提供するインソールは、まさにアインラーゲンの領域にある。店舗併設の工房では、こうしたインソールが手作りされている。
また、同社は靴文化の先進国であるドイツの医療靴を提供できる靴専門店として、整形外科医のお墨付きを得ている。さらに、高崎本店では、整形外科医を招いて「足と靴のクリニック」を月1回開催している。
喜んで非効率に取組む会社
「だいたい1990年以前は、装いの主役は洋服で靴は添え物的な存在であり、ステイタスも低かった。しかも靴はパーツが多く、それぞれに抜き型が必要なうえ、制作工程も多い。靴の履き心地にかかわるラスト(靴型)を品目ごとに作るなど、真面目にやればやるほど、手間のかかる労働集約型ビジネスです」と渋谷社長は笑う。
専門性が高く、実際にインソールを手作りするといった技術が求められるだけに、従業員の99%は正社員。知識やノウハウの習得に時間をかけ、自主勉強会やブロックごとの研修会、そして各店舗では熟練した店長の下で日常的にOJTを行うなど、教育研修に熱心に取組んでいる。
「弊社は非効率的なことを喜んでする会社。靴が好きでクラフトマンシップにあふれ、お客様に献身的な社員が多い。DNAとして息づいています」。
小売不況といわれる昨今、簡単に他社が参入できない分野を独自に切り拓き、安定したニーズを獲得している。
「『楽歩堂』の名前をもっと輝かせれば、靴の大切さをより多くの人に知ってもらえる。しかも修理しながら長く愛用できる靴は環境にも優しい」。
創業以来21年。手応えを感じつつ渋谷社長は更なる前進に意欲をみせる。
株式会社楽歩堂
代表取締役 渋谷 則明さん
本社・高崎本店:高崎市緑町4-7-7
TEL:027-364-6414
高崎商工会議所『商工たかさき』2018年9月号