都市鉱山に眠る金属資源のリサイクル

(2020年06月30日)

上越鋼業株式会社

 

スクラップ加工処理業

オフィス家具、家庭用電気機器、自動車、建物などの素材として、暮らしに欠かせない「鉄」。そして、銅・アルミニウム・ニッケル・クロムなど鉄以外の「非鉄金属」。上越鋼業株式会社は、スクラップ加工処理業を営み、こうした金属資源のリサイクルを担っている。

暮らしの中で使用され不要になったスクラップは「市中スクラップ」と呼ばれ、機械や自動車などの製造工場から排出される「工場発生スクラップ」と、建物や自動車などの解体業者から排出される「老廃スクラップ」とに大別される。

同社では、回収されたスクラップに「切断」「プレス」の加工処理を施している。その加工風景はダイナミックで、積み上げられた鉄スクラップを、カニのはさみのような「ユンボ」や、大きな電気式の磁石の付いたクレーンを使って、積み下ろしや機械への投入を行っている。パイプや建材など、厚みや長さのあるものは切断機やプレス機で長さや大きさを調整する。

こうして加工された鉄スクラップは、取引先の電炉メーカーに渡り、電気炉で溶かされ新しい鉄として再生され、主に棒鋼やH型鋼などの建材として製品化される。

 

 

価格に応じて広がる回収エリア

金属の特性を生かした製品づくりが進み、使用される金属が多様化する今日、スクラップの成分を分析する工程は、年々手間のかかる仕事になっている。

「工場発生のスクラップの場合は、相手先とのコミュニケーションによって、含有物の情報を得ることができますが、老廃スクラップの場合は、熟練の従業員の見極める力が大きくものをいいます」と話す波潟憲昭社長。同社では、70歳前後のベテラン従業員が頼もしい担い手として活躍している。それでも金属の成分がわからない時は、分析器が頼りになる。

金属の価格は需要と供給のバランスによって変動しており、金属の流通量の中で最も多い鉄の価格が1トン2万円だとすると、クロムは3万円、アルミは8万円、ステンレスは10万円、銅は60万円程度と市場価値に開きがあり、価格に応じて回収エリアが広範囲におよぶ。鉄・クロムは県内、ステンレス・アルミは隣接県、高価な非鉄は関東一円まで広がっている。

 

金属資源の流通でダム機能を果たす

「当社の営業マンは、モノを売るのではなく、買いに行くのが仕事。それも一般的な商取引とは真逆で、購入量が増えるほど購入単価が上がります。加工品を売る時も、スクラップを買う時も、取扱量が多いほど力のある業者とみられ、スクラップや加工品がストックヤードに山積みされているほど取引を優位に進めることがでます」と独特の商習慣がある。同社のような加工業者は、金属資源の流通過程で、需要と供給のバランスを調整するダム機能を果たしている。

新型コロナウイルス感染症による自粛の影響で、多くの工場がストップした影響などを受け、5月中旬の同社のストックヤードでは回収品やスクラップ加工品の量が半減した。その一方で、家庭からの不用品の持ち込み件数が増えたという。

 

三井物産㈱とのパートナーシップ

同社の創業は昭和41年(1966)。新潟県長岡市に本社があり秋田・東京・高崎に拠点を置いて大きく事業を展開していたスクラップ加工業社が源流となる。その企業が廃業するに際し、当時高崎の営業所長だった波潟社長の父である昭五郎現会長は、三井物産株式会社より起業を持ちかけられた。人物的に高い評価を得ただけでなく、交通拠点性が高く工場も多い高崎エリアの市場性も着目された。以来、グローバルな視点に立ったアドバイスや経営のノウハウの提供など一流のバックアップに支えられてきた。

「彼らの要求に必死についてきた半世紀」と波潟社長は振り返り、今も三井物産が示す羅針盤に絶対の信頼を置く。

 

 

「ステンレス」のリサイクルや「輸出」への取組み

2代目の波潟社長になって「鉄」一色だったスクラップ加工処理に、「ステンレス」の取扱いや「輸出」への取組みが加わるようになった。

ステンレスは主成分の鉄とニッケル・クロム等の合金で、サビにくく清潔感があるうえ、耐熱性、強度、加工性にも優れ様々な製品づくりに使用されている。しかも、使用量の約9割という高いリサイクル性も注目される。

一方、高度経済成長期に「産業の米」といわれた鉄について、日本はかつて世界有数の鉄スクラップ輸入国だった。しかし、鉄鋼備蓄量の増加で、1992年以降は輸出量が上回り、現在では主に東南アジアの国々への輸出が増えている。

同社でも、三井物産のコーディネイトにより、5年前からは、新たに非鉄金属の輸出にも取り組みはじめた。厳しい品質チェックや内容成分の安定化が求められ、それをクリアするために、同社の加工技術やノウハウの蓄積が図られている。これまで以上に非鉄金属の取り扱いを増やし、種類別のヤードを確保する等、土地の確保にも取組んできた。

「私たちの身のまわりにある自動車や家電製品には、多くの非鉄金属が使用されており、そのスクラップは〝都市鉱山〟と言う名の宝の山」と波潟社長。環境負荷軽減がますます求められる社会で、同社の果たす役割は重要度を増している。

 

上越鋼業株式会社

〜会社概要〜

代表取締役社長  波潟  憲昭さん

高崎市上豊岡町560-10(八幡第二工業団地)

TEL:027-343-1325

 

高崎商工会議所『商工たかさき』2020年6月号

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