化学プラントの設計・製造・施工・メンテナンスを一貫体制で
(2019年08月31日)
株式会社上備製作所
造り酒屋からの転業
同社の創業は大正8年(1919)3月。市内中紺屋町でボイラーや圧力容器等を製造する堀口鉄工所としてスタートした。今年で100周年を迎えた。
堀口家は元々造り酒屋を営んでおり、米を蒸したり、熱殺菌をしたりする製造工程で必要となる設備を自前で造ったことが始まり。
「当時市場に出回っていた外国製のボイラーを研究したようです。やがて他の酒屋へも製品を販売するようになり、本格的にボイラーや圧力容器等の製造を始めたと聞いています」と話す4代目の堀口廣政社長。
当時は生糸の輸出が急激に伸びた時代でもあり、繭玉を蒸して糸を取り出す製糸工場からの需要が拡大したことから、造り酒屋から転業を果たした。
古い写真は大正11年に撮影したもので、自社で製造したボイラー・圧力容器を台車に積んで前橋市の片倉製糸紡績株式会社(後の片倉工業株式会社)まで人力で運んだ時の様子をとらえている。このときはまだ溶接技術のない時代で、穴を開けた部材に頭部とねじ部のない釘のような胴部を差し込んで専用の工具で接合するリベット構造が主流だった。
社内一貫体制で各種プラントをバックアップ
同社は、卓越したエンジニアリング(工学)技術を集積し、現在では主に化学、医薬、食品の3分野におけるプラントの設計・製造・施工・メンテナンスを手がけるほか、低温倉庫・煙突・ダスト・高架水槽などの鋼構造物や、圧力容器・高圧ガス特定設備容器などの製造も行なっている。
化学を実用化し、ひとの生活に役立つことを目的としたエンジニアリング技術は、いかに最高の機能を発揮させるかを追求するもの。
例えば、顧客先となる香料メーカーや製薬会社で使用する「抽出設備」は、コーヒーやお茶、ビタミン等を取り出すときに使用するが、この工程ではエタノール等のアルコールを常時使用するため、漏れ性に対応した設備の設計・製作が重要になる。また、半導体メーカーであれば、フッ化物の使用は欠かせず、濡れ性、不純物、蒸気圧等を制御する設備が求められる。
顧客先の使用状況や目的を十分理解したうえで、多様なニーズに応える設備の実現に向け、最善を尽くしている。
セイフティ―・ファーストの実践
“上備製作所は人々が安心して働くことができる生産設備の創造を通して、豊かな社会の実現に貢献します”を企業理念として、企業行動指針の最初に、“安全性を第一とした高品質を提供します(セイフティ―・ファースト)”を掲げている。
化学、医薬品、食品等の製造プラント全体の建設に携わっていることから、各種工場で取扱う危険物をはじめ、安全対策により配慮した取り組みを行ってきた。
堀口社長は自ら率先して、群馬県危険物安全協会連合会や高崎地区危険物安全協会の会長を務め、事故の原因となる静電気対策を講じたり、危険物取扱者養成に関する講習会、初期消火競技会を開催したりと、業界全体の危険物保安活動に熱心に取り組んでいる。
また、取引先の死亡事故をきっかけに、毎月朝礼で災害・事故事例の検討会を実施し、議論の場をもうけるなど、社員一人一人の安全への意識を徹底させ、高品質な製品づくりに反映させている。
高崎と倉敷に製造拠点
同社は昭和39年(1964)に㈱上備製作所と社名を変更した。上州の「上」に備中・備前(岡山県)の「備」を併せたもの。取引先企業が岡山県の瀬戸内海に臨む国内有数の水島コンビナートに進出する際に、声をかけられたのがきっかけとなり、水島工場を開設した。当時は多くのプラント建設が行われていて、建設ラッシュがひと段落すると、メンテナンスでも大いに必要とされてきた。
従業員数は、高崎工場と水島工場で、それぞれ100名程度と同規模。顧客先の生産設備にかかわり、製造ノウハウの機密に触れることもある。また、新製品のための製造設備への投資が不可欠なメーカーに寄り添い、その要求に応えるプラントの設計・製造を通して、より良い製品づくりをバックアップする。実績を積み重ねることで顧客先との信頼関係を深めている。
仕事に楽しさを見出し誠実に取り組む
大学は文系出身でありながら、自らオフィスコンピュータや、製造現場で活躍中の自動罫書切断装置のプログラムなどを作成し、フレキシブルな機能を実現してきたという堀口社長。「当社のものづくりの現場は興味が尽きない」と力説する。
既に4代目社長の座を5代目に譲ることも視野に入れている。「息子は自分の判断で別会社に就職しましたが、外部から当社の評判を聞いて見直したようです」と嬉しそうだ。
かつて造り酒屋だった縁から、今も市内の酒造メーカーとのお付き合いが続く。こうした縁を大切に誠実に対応することが100年続く秘訣のようだ。
会社概要
代表取締役社長 堀口 廣政さん
高崎工場:高崎市大八木町816
TEL:027-361-3311
高崎商工会議所『商工たかさき』2019年6月