循環型社会を切り開く環境企業
(2016年09月26日)
「もったいない」が新たなビジネスに
省エネや省資源、廃棄物の分別リサイクルなど、環境に配慮した企業活動は、特別なことではなく、当たり前の時代となった。資源の有効利用や環境負荷の低減が社会的に強く求められる中、市内の廃棄物処理事業者では先進的な取り組みが始められている。
写真右上:食品リサイクルプラント(群成舎、アイ・アール・エム)
写真左上:出荷を待つ紙再生資源(糸井商事)
写真右下:食品廃棄物が飼料として再資源化(環境システムズ)
写真左下:環境保全センターが携わる水処理プラント
「商工たかさき」 2016/9号より
■リサイクル事業は地域と一体
●全国でごみ排出量が多い群馬県、実は高崎も
環境省の調査によれば、群馬県の県民一人一日当たりのごみ排出量は、1,051g(平成26年度)で全国平均の947gよりも104g多く、全国の中でも最低ランクに近い順位となっている。群馬県のリサイクル率は15.6%で、全国平均の20.6%も下回る。
商工業や都市基盤に関する数値で高崎市は全国に誇る水準を示しているが、ごみ排出量については、高崎市民一人当たり1,027g、リサイクルは13.7%で全国平均を下回っている。高崎市のごみ焼却施設・高浜クリーンセンターが老朽化し、建て替え問題が長期化していることも背景としてある。高崎市は新焼却施設の具体化にこぎつけ、平成34年度に供用開始の予定となっており、新施設の稼働に合わせ高崎市の環境施策が大きく前進するものと期待されている。
●環境意識の普及で新たな展開
ごみ排出量は、家庭から排出される生活系ごみの比重が高いので、住民意識に依存するところが大きい。本誌読者となる事業所から排出されるごみ、つまり企業活動に伴う事業系ごみは排出者に処理責任があり、家庭ごみと切り分けて考える必要があるのだが、事業所も市民の一員として地域環境に貢献していくことは、現在の社会ニーズとなっている。ISOやエコアクションなどの認証を取得し、環境活動を積極的に実施している当所会員企業も多い。
●課題はビジネスとしての品質と採算性
環境への意識が市民、企業に浸透しているが、廃棄物処理が通常の製品や商品と大きく異なるのは、廃棄物はマイナスの価値の商品という点である。排出する企業にとって処理費用は安いほど良く、処理の品質もわかりにくい。一般の商品であれば、品質やアフターサービスなど後々のことも考えて購入するが、廃棄物は出してしまえばそれで終わり、「あとは野となれ山となれ」という感覚が強い。現実にはそれで済むはずがなく、処理事業者が企業努力により処理品質を高めても、苦労が社会に伝わりにくい業態である。
また、古紙や空き缶・ペットボトルのようにリサイクルが定着している資源物以外では、スーパーなどのプラスチックトレーやペットボトルキャップ回収などが目を引くが、売却益は途上国の子どもたちのワクチンとして寄附されたり、植樹活動に使うなどのチャリティ的なイメージもあり、採算性のある新しいビジネスモデルをつくりにくい。
新たなリサイクル循環を作りだすためには、今は焼却処分されているごみの中から、新しいリサイクル資源を分別し直し、再資源化する工程を構築、その資源を流通させる市場を創出しなければならず、けっして容易なことではない。しかし、その取り組みは既に高崎で始まっており、今後、循環型の地域社会を大きく前進させる力になると期待される。
●地域密着だからできる新リサイクルビジネス
リサイクルは、法的な枠組みの中での事業形態となり、原則として市町村や都道府県が許認可権限を持っている。全国的な大手企業はなく、地域の中小規模の事業者がそのエリアのリサイクルの中心的な役割を担う。
リサイクル事業者は地域密着の企業である。全国画一的な手法ではなく、高崎の先進的な廃棄物処理事業者が、地域の特色を生かしたリサイクルの仕組みをつくり、質の高いサービスを提供すれば、高崎ならではの環境への取り組みを力強く押し進めることになる。
これまでの分別リサイクルの仕組みだけではなく、市内の環境企業では、企業連携や技術、顧客目線のサービスなど新たな視点により、潜在的なリサイクル需要が開拓されている。高崎発の環境ビジネスが誕生しているのである。
■食品リサイクルで循環型農業を実現
●「もったいない」をリサイクル
農林水産省によれば、平成27年度の日本の食料自給率は、カロリーベースで39%、生産ベースで66%となっており、将来的な食糧確保を危惧する声も上がっている。その中で、期限切れの食品が大量に廃棄され「もったいない」という話題を耳にすることがある。食品を廃棄する側ももったいないと考えており、国も食品廃棄物の再資源化を重要視して力を入れている分野だ。
国が示している食品廃棄物の再資源化の優先順位は、第1が家畜などの飼料、第2が肥料で、食糧の循環を創出すること。第3が燃やして電力エネルギーにすることとなっている。
燃やしてしまうよりも、農畜産物としてリサイクルすることが望ましいが、優先順位が高い家畜の飼料化は、実現するためのハードルが非常に高い事業である。
以前、肉骨粉によるBSEが大きな問題となったが、飼料は家畜の生育に大きく関わるので、耕作用の肥料に比べ厳しい管理が必要だ。また家畜は高度な飼育が行われており、リサイクルで生産した飼料は、安心安全で成分も安定していないと使用できない。リサイクル飼料によって生育した家畜の品質が良好でなければ、畜産農家の経営にも関わってくる。
●食品リサイクルの輪が高崎から広がる
このハードルが高い飼料化による食品リサイクルを実現しようと、高崎で産学連携の取り組みが生まれた。
地元で排出された食品廃棄物から飼料を作り、その飼料で家畜を育て、地元で消費する食品リサイクルを作りだそうと、2010年に高崎で「ぐんま食品リサイクルすまいるーぷ協議会」が立ち上がり、高崎経済大学、飲食店、スーパー、廃棄物処理事業者、飼料加工者、畜産者が連携した取り組みを行っている。事業ネットワークの一翼を担う株式会社群成舎は、食品リサイクル部門としてアイ・アール・エム株式会社を共同で設立。同事業を統括する群成舎の循環推進部、土屋充男部長代理は「家畜の飼料になるので野菜だけを分別し、肉や魚が混入しないようにしてもらう。鮮度も大切だ」と語る。
全国的には大手企業がグループ内でリサイクルしている例などがあるが、数多くの地域企業が連携した食品リサイクルは全国でも珍しく、高崎ならではの取り組みとなっている。
この仕組みでは、これまで食品リサイクルに取り組もうと考えていてもできなかった地元スーパーなど、地域企業の幅広い参加を喚起することができている。また同協議会が高崎食品衛生協会の会員約1千店にアンケートしたところ、6割以上の店舗がリサイクル事業への参加に興味を示しているという。協議会では、新たな参加店から週1回にバケツ1杯の野菜くずを回収して、食品リサイクルの輪を広げていきたいと計画している。群成舎の土屋さんは「食品のリサイクルをやりたくてもやれなかった飲食店がとても多いことがわかった。多くの人が参加できるきっかけづくりになる」と話している。
●リサイクル資源で6次産業 飼料化・養豚・小売店を自社実現
県内の大手コンビニから排出される廃棄物の処理を行っている株式会社環境システムズは、廃棄された弁当などを加工処理し、エコフィード飼料の生産を行っている。この飼料で養豚を行い、年間1,200頭を出荷。豚肉の販売店として「榛名十文字ミート」を開店、リサイクルの輪を自社グループで作り上げた。同店では、新たな地域ブランド「榛名十文字うどん」が食べられ、おいしいと評判にもなっている。
環境システムズの塚田敏則社長は「身の回りのリサイクルを事業化したい」と平成10年頃から再資源化と農業を組み合わせた取り組みを考えてきた。平成13年にイーブリッジ株式会社を十文字町に設立し、認定農業者の認定を受け、榛名山麓の農地約1.8haを取得、農場・豚舎を設けた。農地ではリサイクル肥料を使ってジャガイモやネギ、ゴボウ、ショウガなどを生産し、榛名十文字ミートで提供するうどんの具にも使用している。食品リサイクルにより、地産地消の6次産業を実現した。
塚田社長は「これから更に農業規模を拡大していきたい」と意欲を持っている。
■先進的な障害者雇用を創出
●高崎初の特例子会社
環境システムズの塚田社長は、10年ほど前から障害者雇用にも力を入れ、積極的に採用を行ってきた。平成27年に、高崎初の特例子会社「株式会社環境福祉サービス」を発足させ、新たな障害者雇用を創出するとともに、障害者の自立支援に一層力を注いでいる。
環境福祉サービスでは、12人の障害者が正社員として勤務しており、仕事に生きがいを持ってもらっている。
一定規模以上の事業所では、障害者雇用が法的に義務づけられており、雇用は徐々に進んでいるものの、群馬県の民間企業の障害者の実雇用率は1.8%で、全国47都道府県で46位。塚田社長はこうした群馬県の状況を憂慮し、今後も障害者雇用を進めていきたいと考えている。
●地域雇用と人が集まる場づくりも
十文字町の農場や榛名十文字ミートの店舗は地域雇用の場ともなっている。店舗はうどんが食べられるので、買い物だけではなく、食事の来店客もおり、人のにぎわいも生まれている。十文字町は同社の発展の中で思い入れのある地で、塚田社長は地域貢献の意味も含めて事業を展開している。
「本業の延長上に、独自の循環型ビジネスモデルを作っていきたい。農業部門の体力づくりをはかっていきたい」と塚田社長は更なる展望を描く。
■再資源を回収するオフィスサービス
●地域に求められる「資源屋」に
オフィスから排出される書類、シュレッダー屑、段ボール、空き缶・ペットボトルを巡回して買い取るサービスを糸井商事株式会社が始めた。
糸井商事は、いわゆる鉄くずの再資源化、建物の解体などを行う総合リサイクル企業である。廃棄物処理業の中でも糸井商事はものづくり企業と言え、会社も戦前に高崎の工業化を牽引した理研から発祥している。
糸井商事の業態は、大規模な排出者から有償で素材を買い取るもので、顧客から料金をもらって排出されたごみを処理する廃棄物処理業者と立ち位置が大きく違っている。オフィスから出る書類も雑多に捨てれば費用を払って処理するごみ、分別すれば買い取ってもらえる資源となる。とは言え、高額な金属廃材とは異なり、オフィスを一軒一軒回って古紙を引き取る作業は非効率で、ビジネスとして成立しにくい。
糸井丈之社長は「高崎で事業を続け、たくさんの人と出会い、支えてもらってきたが、本業で関われる人たちはわずかだった。これから一人でも多くの人と仕事でつながっていきたい」と、オフィスに出向く回収サービスを考えたという。「うちは資源屋であり、再資源化を通じて存在価値を示していきたい」と語る。
●社員に還元できる副収入に
このサービスは、オフィスの一角に回収ボックスを置いてもらったり、事前に渡しておく専用の回収ごみ袋に、書類やシュレッダー屑、空き缶などをそれぞれ分別して入れてもらう。決められた日にスタッフが回収し、引き取り数量を記入した伝票と前月の買い取り金を現金で渡す。とてもシンプルだ。
糸井商事の回収サービスを利用する市内企業も増えているそうで、事業所規模によって買い取り金の多寡はあるが、積もり積もればまとまった金額になり、ほとんどの企業は社員旅行や懇親会の費用に充当するなどの福利厚生で社員に還元し、かなり好評のようだ。社員の方も自分たちに戻ってくるのでリサイクルにやる気が出て、回収量も増えている。新しい利用企業を紹介されることも多くなった。
幼稚園や保育園などでも導入するところがあり、折り紙遊びで切った紙くずなどを子どもたちが率先して集めているという。「小さい頃から資源を大切にする心が養われるのでは」と糸井社長は目を細める。
●御用聞き営業で地域を支えたい
糸井社長は「創業から70年となり、これからも高崎で100年、150年と事業を続けていける会社にしたい。企業が継続していくためには高崎の発展があってこそ。高崎の中で欠かせない企業となっていきたい」と語る。
仕組みはシンプル、地道なサービスとなり、地域での信用と企業体力が必要だ。同じことをやろうと思っても、できそうでできない。糸井社長らしいアイデアである。
市内のオフィスを一軒一軒回る御用聞き営業で利用企業を増やし、これからスケールメリットでこのサービス事業を軌道に乗せていきたいそうだ。
「地域に生かされている、地域の活性化に役立ちたい」が信条の糸井社長は、プロ野球の独立リーグ、ルートインBCリーグ群馬ダイヤモンドペガサス会長の顔としても力を注いでいる。
■高まる機密性と処理品質
●まだまだできる紙の分別
ごみ減量のため、数年前に高崎市が家庭ごみの内容をサンプリング調査したところ、紙類が約3割を占めていることがわかり、紙の分別、回収はまだまだできることが示された。
糸井商事のオフィスサービスのような取り組みは、古紙類の回収について新たな受け皿となる。環境システムズでは、古紙リサイクルに積極的に取り組み、様々な種類の紙ごみを回収しリサイクルしている。
●高度なコンプライアンスに対応
一方、機密情報の漏えい防止は企業生命に関わり、顧客情報の流出が報道されている。更にマイナンバー導入でプライバシー保護に対する意識も高まっている。
廃棄物処理に対するコンプラアインスは強化され、今回取材した群成舎、環境システムズ、糸井商事はともに、品質の高いサービスを提供している。糸井商事では、大型シュレッダーを搭載したトラックで客先などへ出向き、客の目の前でシュレッダー裁断するサービスを行っている。環境システムズでも大型シュレッダーを搭載したトラックによる出張サービスを行っている。文書の裁断状況を客自身の目で確認できるので、好評である。もちろん裁断紙片は再資源化される。
群成舎は、機密文書処理専門の全国ネットワーク「全国情報セキュリティ& リサイクルネットワーク」を組織し、全国12社により北海道から九州まで、高度なセキュリティ対策によるサービスを行っている。
●セキュリティは現金輸送に匹敵
機密書類は厳重に施錠されたセキュリティボックスで回収、輸送する車両は現金輸送車に匹敵する専用車両を使う。処理施設は厳しい入退室管理と監視が行われている。書類は特殊な方法で破砕し、よりリサイクルに適した細片に処理される。
全国に600もの事務所を持つ大手企業に採用され、どの支店でもハイレベルの廃棄処理が実現できたと評価が高い。このサービスの導入により、社員のセキュリティ意識も高まるなどの効果もあったという。
■水処理のエキスパート
●群馬の環境づくりの汗を流す
排水をきれいな水にして河川に放流する技術は、環境保全に欠かせない。高崎や群馬の美しい自然を守るとともに、この水は下流域に暮らす人たちの飲み水となる。水処理も資源リサイクルの一分野として、今回の特集に加えた。
高崎市の下水道は、全国9番目の早さで、昭和32年に城南処理場が稼働した。株式会社環境保全センターは、高崎の水処理とともに歩み、し尿処理、浄化槽、下水道、設備、ビルメンテナンスなど幅広く事業を展開している。
同社が発足した昭和40年代は、し尿処理や水処理の技術を持つ企業が少なく、県内はもとより全国の自治体から依頼を受け、環境設備の工事やメンテナンスを行った。技術が蓄積したオンリーワン企業で、規模の大きな合併浄化槽では、ずば抜けた実績を持っている。「群馬の環境づくりのために汗を流してきた」と塚田且美社長は振り返る。
グループ企業の総合力を発揮
環境を守るための技術は幅広い。水処理プラント等の設備工事がマンションやオフィスビル、ホテルなどのメンテナンス力につながり、浄化槽のノウハウは家屋の水回り・リフォーム工事に広がる。またプラントの運用で定期的に発生する水質や大気の検査も専門的な知識と機器を必要とし、自治体や工場などからの需要も絶えない。塚田社長は、環境保全センターを含む関連4社で高流会グループとして連携し、総合的な環境技術の提供をはかっている。
環境技術の研究開発にも力を入れており、浄化槽の機能を高める補助剤「ゲルMAX113」を開発し、特許を取得。開発に5年をかけた。天然素材を使用しているので環境負荷もなく、家庭から下水処理場まで幅広く使える優れた製品となっているそうだ。
業務範囲が幅広く、万が一に備えて24時間の出動体制を持っている。問題の発生個所が地下の場合もあるので油圧ショベルもあり、発電機など装備一式を積んで現場に向かう事もあるそうだ。
「これからも環境施設を中心に地域貢献していきたい」と塚田社長は語る。
■災害時にも重要な役割
廃棄物処理事業者は、災害時にも重要な役割を担い、環境システムズでは高崎市ほか県内自治体と協定を締結し、万が一の際は、再生トイレットペーパーやティシュペーパーを提供する。
大規模災害で大勢が避難している避難所では、トイレのし尿処理など衛生問題が必ず大きな課題となっている。高崎市では災害に備え、民間との連携を強化しており、こうした防災協定の動きは広がっていくと考えられる。
■ ■ ■
群馬県や高崎市のごみ排出量・リサイクル率はそれほど大きな変動はなく、一定の水準を上下しているだけなので、現在のリサイクルの取り組み効果は頭打ちになっているのかもしれない。循環型社会を実現するには、地域でその仕組みを作り上げていく必要があり、環境企業はその重要な担い手と言える。循環型農業の期待も大きく、高崎発の取り組みが大きな可能性を持っている。
■取材企業
株式会社群成舎
高崎市上並榎町129-1
株式会社環境システムズ
高崎市倉賀野町2465-4
糸井商事株式会社
高崎市上大類町399
株式会社環境保全センター
高崎市下大島町626
(商工たかさき・平成28年9月号)