高崎商工会議所「経営発達支援計画」認定

(2015年08月19日)

小規模企業に「寄り添う伴走型支援」を強化


●全国519件の商工会議所・商工会の申請から70件が採択に

 従業員規模が20人以下の「小規模事業者」は、国内企業の86.5%を占めており、地域経済を支える大切な役割を果たしている。一方、この小規模事業者は、社会変化の影響を受けやすく経営強化の緊急性も高いことから、国はこの小規模事業者に対する支援法を定めている。
 この法律に基づく国の重点施策として、今回初めて全国の商工会議所・商工会から申請された支援計画の中から優れたものを中小企業庁が認定する制度が実施され、全国519件の申請の中から、最も高い評価を受けた70件の中に当所が選ばれた。この計画は「経営発達支援計画」と呼ばれ、小規模事業者に寄り添った伴走型支援を推進、強化するものとなっている。
 
注)小規模事業者とは
〈常時使用する従業員の数〉
●製造業その他 20人以下
●卸売業・小売業 5人以下
●サービス業(宿泊業・娯楽業以外) 5人以下
●サービス業のうち宿泊業・娯楽業 20人以下

「商工たかさき」 2015/8号より

■経営発達支援計画って何

●企業の魅力を引き出す身近な支援


 高崎商工会議所が策定した「経営発達支援計画」について、まず身近な取り組みから知っていただきたい。この取り組みが全国のモデルとして中小企業庁に評価を受けることになった。
 高崎市内には独自の技術やサービス、商品を開発している魅力的な企業が数多い。当所の職員が事業所にお邪魔をしてみると、事業内容に他社が取り組んでいない魅力や将来性がたくさんあり、感心させられることばかりであるが、そのことをお話しすると、経営者の方が「えっ、本当ですか」と驚かれることが多い。
 また、経営者の方々は、頭の中にたくさんの引き出しを持っていて、アイデアがいっぱいだが、引き出しを開けるチャンスが少ないようだ。
 日々の業務の中に、磨けばもっと輝くビジネスの原石が眠っている。こうした原石は一連の業務や作業の中で、見過ごされていたり、自覚されていなかったりする。アイデアが詰まった引き出しの中も、もう少し整理してみると、しっかりとした計画づくりに結び付けることができる。気付いてもらえば、自社の新規性や独自性、優位性として事業成長の大きな力となる。
 こうしたことを経営者と話し合いながら、企業の持続的な成長に役立つ経営計画策定や経営革新のプランニングのお手伝いをするのが、当所の「経営発達支援計画」の大きな狙いのひとつになっている。

■どんな支援が受けられるの?

●経営分析で自社の強みと課題を 採点してみよう

 自社の経営や業績を評価されることは、経営者の通知表をもらうようなものでもあり、あまり面白くない。「顧客を増やし売上を伸ばしたいが、今でも結構うまく行っているし、商品の特徴もよくわかっている。うるさいことを言われるのもうっとうしい。経営分析なんてめんどくさいだけだ」と思っている人も、おそらく多いのではないか。ところが、後述の体験談のように、やってみると、けっこう面白いもので、自社の強みと弱みがはっきりわかることは、経営者にとって、うれしい励みにつながっている。
 有名な経営分析の一つにSWOT分析があり、Strength(強み=自社の強み)、Weakness(弱み=自社の弱み・課題)、Opportunity(機会=外部にあるチャンス)、Threat(脅威= 外部にある都合の悪いこと)の頭文字をとったものだ。

●弱みと強みは表裏の関係

 SWOT分析に書き出して見ると、自社の特徴が見えてくる。自社の強みと言っても、自慢できるものは思いつかないし、弱みを考えると愚痴っぽくなって書きたくない。最初は誰もがそう思われるようだが、事業所の方にお話を伺ってみると、決してそんなことはない。
 例えば、弱み=「業界全体が時代の流れで構造的な不況に陥っている。同業者も廃業が相次ぎ将来が心配だ」。脅威=「量販店の廉価な製品に押され、せっかく磨いた技能を発揮する機会もなくなってきた」。ところが、強み=「技能を持っている同業店が全国で無くなり、量販品に飽き足らないお客様から広域的に声がかかるようになった」。
 同業が廃業する中で、技能を磨いてがんばってきたのは「弱み」のようで実は「強み」になっている。量販品の台頭で低価格の商品が売れなくなったのは「脅威」だが、ハイエンド商品(高級品)の販路を拡大する「機会」となった。どのようなターゲットに、どのようなサービスを提供していったらいいのか、経営分析をもとに相談を重ね、経営戦略を練る中で、一つの方向性が見えてきた例である。

●一歩を踏み出すための支援

 また、相談に訪れる経営者は、既に自身の中に「こうしたい」という答えを持っている人も多い。先行投資をして、一歩を踏み出したいが、結果に対する不安も併せて抱えている。事業を展開する上で、100%成功するという保証はどこにもなく、失敗した責任は経営者が負わなくてはならないし、小規模事業者が大きなリスクを取ることはできない。でも、挑戦してみたい気持ちがあふれてきて、いつもそのことで頭がいっぱいだ。
 そうした経営者にも、経営分析で会社を振り返ってもらい、頭の引き出しに入ったアイデアを整理してもらうと、一歩を踏み出すきっかけになる。
 また、企業の実情に見合った効果的な手法や、自己負担を軽減できる補助金を活用してもらうなど、商工会議所のネットワークを生かして、経営者を後押しできる。

●補助金の前に事業計画が大切

 企業経営に補助金を有効に生かしてもらうため、高崎商工会議所では、経営者の方々に事業計画の策定をお願いしている。この事業計画の策定も、今回の「経営発達支援計画」の重要な柱となっている。
 補助金には、見積書と申請書を提出し、先着順や抽選で交付されるものもあれば、詳細な事業計画書を作成し厳しい審査が行われるものもある。なかには経営者が呼び出されて面接が行われる場合もある。言うまでもなく補助金制度は国や県、市町村が税金を使って創設したものなので、使用目的を明確にし、地域経済の活性化に役立つことなどを、審査官にしっかりと伝えることが大切だ。提出した計画内容があやふやだと、審査のふるいから落とされてしまう。中小企業庁は、小規模事業者支援法に合わせ、販路拡大の取り組みに対する「小規模事業者持続化補助金」を募集しており、高崎商工会議所も、この補助金申請と事業計画策定のサポートに力を入れている。
 もちろん、事業計画は、補助金のために策定するものではない。規模の大きな企業では、事業計画は必須のものとなっているが、小規模事業者では経営者の頭の中にあって、計画書策定まで手が回っていないケースも多い。SWOT分析と同様、計画を紙に書き出してもらうと、企業の将来像が浮かび上がってくる。
 1年後、3年後、5年後の成長や、めざす企業の姿を、商品や店舗、設備、人件費などを含めた事業計画として考えてみると、「そのために今、これが必要なのですね」と、やるべきことが見えてくることが多い。3年後に高齢者のお客様を何%増やしたい、そのために今年は、店舗をバリアフリー改装する、高齢者向けのパンフレットを充実させて宣伝をこのように行いたいと、コンセプトがしっかりとしてくる。コンセプトがしっかりすると、従業員にも理解が得られ、意識が高まってくる。
 事業計画は経営の根幹であり、今号の「注目」で取材した山岸製作所では、策定した事業計画を机の中に入れっぱなしにせず、全従業員が携行するようにし、いつも確認できるようにしている。成長している企業、売れているお店の多くは、しっかりとした事業計画を持っている。補助金の利用の有無に関わらず、ぜひ、当所の計画策定支援を利用していただきたい。無理のない計画策定が大切だが、もしも修正の必要があれば、その都度、直していけばいいので、経営の一助にしていただきたい。

●販路拡大も当所の重点事業

今年3月6日・7日に開催した「たかさき物産フェスタin東京駅」

 企業単独の情報発信力には限りがあることから、高崎商工会議所は、首都圏の消費者やバイヤーに対し、企業や事業所の商品や製品をPRする展示販売会、商談会を実施している。今年3月に東京駅地下街で行い、大盛況となったことを受け、第2弾として9月17日(木)から19日(土)に新宿駅西口イベント広場で「たかさき物産フェスタin新宿」を開催する。
 新宿駅は乗降者数日本一で、会場となるイベント広場は年間稼働率100%の人気エリアとなっている。今回の物産フェスタでは、市内企業34社が出店を予定し、首都圏消費者と直接ふれあうことでニーズを把握してもらうとともに、バイヤーとの商談を通じ販路拡大をはかってもらう。

■会議所の使命は地域企業の発展

●会員の課題に寄り添うマンツーマンの支援

 地域企業の発展と地域の活性化は一体のものであり、今回、高崎商工会議所が中小企業庁から認定を受けて進めようとしている「経営発達支援計画」は、管内の小規模事業者に寄り添った伴走型支援を積み重ね、事業者が抱えている経営課題等の解決に向け、当所が一丸となって取り組んでいくものだ。
 これまでの高崎商工会議所が実施してきた経営相談や主催事業をベースに、創業時から成長期、成熟期にあわせて、切れ目のない企業に寄り添う伴走型支援を行い、支援先が必要とする場合は専門家や金融機関と連携していく。

●事業計画策定支援を重点に

 当所が策定した「経営発達支援計画」は、「経営分析・需要動向調査」、「事業計画策定支援」、「販路需要開拓支援」、「地域の経済動向調査」を骨子に、企業の成長段階に応じた支援、ステップアップを求める経営者への支援など幅広く、当所の職員がマンツーマンで取り組み、時には長期にわたって支援を行うこともある。必要に応じて補助金などの制度の活用もはかれるので、先行投資を軽減できるなどのメリットも生まれている。

■■経営計画作成支援ケーススタディ■■

■カトレア美容室 南城みどりさん


バリアフリー化した店舗

(平成26年度・小規模事業者持続化補助金採択)
 倉賀野町で母親が40年以上続けてきた美容室を南城さんが受け継いだ。店舗が幹線道路から奥まっていたので、2年前にスーパーなど郊外店が立ち並ぶ旧国道17号沿いに移転。高齢者にも訪れてほしいとバリアフリーにし、地域の人たちのサロンにしていきたいと多目的なセミナールームを店舗内に設けた。店舗のコンセプトを明確にし、客席の間隔は広く、個室も設け、ゆったりとした接客環境を整え、外観や内装も南城さんのコンセプトに基づいて設計した。
 「高崎はコンビニよりも美容室の方が多い大激戦区です」と語る。激戦区高崎で店の個性を発揮するため、自店の特徴である弱酸性美容を多くの人に知ってもうらおうと広報ツールの製作を考え始めた。そんな折、高崎商工会議所で「無料で経営相談が受けられるよ」と知人から教えられ、「じゃあ行ってみようか」と当所を訪れたそうだ。
 お客様とセミナールームの利用者で、狙い通り人が集まる場所として親しまれるようになっており、南城さんは自店の価値を、もっと上手に発信できればと考え、宣伝集客活動に「小規模事業者持続化補助金」を活用することを決めた。SWOT分析をしてみると、店の特徴が次第に見え、ターゲットの客層や勝負するフィールドも絞れてきた。チラシやパンフに何を盛り込みたいか、デザインはどうしたいのか、デザイナーに具体的に伝えられ、自分の考えに確信が持てるようになったそうだ。チラシの配布も、「いつ・誰に・どのような手段」で配布したらよいかを分析し、ターゲット層の目に触れるように考えた。
 補助金申請の中で取り組んだ経営分析や事業計画策定の効果として、南城さんを始め、スタッフ全員がお店のコンセプトを顧客に説明できるようになり、やりたいことがはっきりとしてきたという。「一人ではできなかったので支援に感謝しています」と、喜びの言葉をいただけた。南城さんはステップアップをめざし「ここでストップしないで、発展させていきたい」と意欲にあふれている。

●担当者から一言
 カトレア美容室さんには、平成25年の店舗移転時から様々な面でご相談いただいていました。弱酸性美容や高齢者に優しい店舗づくり、フェイスブックやセミナールームの活用等、他店とは違う取り組みをされていたことから、南城さんの考えを引き出して申請書の作成においても写真等を交えてその点を強調しました。また、採択後も補助事業の実施に向けて支援を行っています。

■上原インテリア 上原正行さん


ショールーム化した店内

(平成27年度・小規模事業者持続化補助金採択)
 創業100年を超える畳店が転機を迎えた。「最近の新築住宅は洋間ばかりで和室が無い家も多いのです」と語る上原さんは畳職人である。和室が無いから畳もない。畳の需要が年々減少し、畳店も数が少なくなった。高崎市内では畳店の高齢化が進み、市内同業の中に30代は上原さん他数人しかいないという。
 そんな中で、洋間に畳を置きたいという要望が増えてきた。洋間でも冬はこたつを置きたいし、畳の上でゴロゴロしたい。日本人ならではの生活習慣で畳が恋しくなる。こだわりのお客様も多く、畳の風合いや色調を変えてみたり、畳だけでなく壁やインテリアなど部屋のリフォームに及ぶ注文も増えてきた。畳職人として腕を磨いた上原さんは伝統的な畳からデザイン性の高いもので幅広く対応できた。「どんな感じになるのか」とお客様から完成後のイメージパースやデザイン畳の見本を求められ、上原さんは提案力アップの必要性を強く感じ始めた。
 上原さんは店の一角をショールームとして改装、デザイン畳や上原さんが考えた畳インテリアなどを展示し、素敵な空間が演出されている。現在、「小規模事業者持続化補助金」の採択を受け、提案力を強化し、新規顧客の開拓に取り組んでいる。
 「畳が減っている危機感は自分なりに持っていた。新規分野に取り組む費用が心配だったので補助金が活用できてよかった」と語る。経営計画に取り組む中で「ぼんやりと考えていたことを文字にすると、やりたいことがはっきりと見えてきた」と上原さんは実感したそうだ。

●担当者から一言
 補助金申請締切日の朝まで、申請書内容の確認を行いました。上原さんの革新的な取り組みと「熱い想い」をいかに審査員に伝えることができるかということに注力し、申請のお手伝いをさせて頂き、無事採択を受けることができました。私自身、日頃より会議所事業を通じて、上原インテリアさんという事業所自体をよく把握できていたのも採択に繋がった大きな要因であると考えております。

■高崎商工会議所の「経営発達支援計画」の概要

●実施期間
平成27年4月1日〜平成32年3月31日
●目標
当所職員の資質を更に高め、併せて地域支援機関の中核的機能を果たすことにより、経営資源に乏しい管内小規模事業者に対して創業時から成長、成熟期に合わせたきめ細かい伴走型支援を実施し、管内小規模事業者の持続的発展を目指す。

■事業内容

コミュニティサイクル 高チャリ
たかさき産業祭
商都博覧会

【アンケート調査事業】
新たに管内商工業者に対して経営環境等の調査を実施し、小規模事業者の実態に即した経営支援策を講じる。
【情報伝達強化支援事業】
経営指導員の巡回によって収集した旬な需要動向や各種調査資料を分析・加工した情報を、携帯端末の活用や会報・ホームページの刷新により、情報力に乏しい小規模事業者に広く周知を図る。
【事業計画策定支援事業】
事業計画策定を目指す小規模事業者の掘り起こしと計画策定の必要性を説き、発達段階に応じた支援を実施するとともに新設される「小規模事業者経営発達支援融資制度」への活用を図る。
【創業・第二創業・経営革新支援事業】
「創業支援事業計画」の認定を受けた高崎市産業創造館と、また設立した「たかさき創業応援ネットワーク」を機能させ、成長に合わせた伴走型支援を実施することで地域創業等を後押しする。
【販路開拓・拡大支援事業】
小規模事業者の最大課題である販路開拓・拡大に対しては、ホームページ作成支援と展示商談会事業を拡充強化することにより対応する。
【飲食業活性化事業】
「高崎まちなかオープンカフェ」と「高崎バル」について、参加店舗の事業計画策定等個者支援により新店舗出店や業態化を強力に支援する。
【経営安定相談事業】
事業者の経営危機の未然防止と危機に陥った事業者の経営改善を支援して行く。また新たにM&Aの手法を取り入れ多様な対応をはかる。
【人材育成支援事業】
階層別ビジネスセミナーと経営課題別セミナーを定期的に実施し、人的資源の乏しい小規模事業者への側面支援を行う。
【地域経済活性化】
大型商業施設進出による影響と新たな地域経済活性化策を検討する。またイベント効果についても検証し、各個店の売上貢献度を把握する。

(商工たかさき・平成27年8月号)

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