SDGsを経営に生かす(4)
(2021年08月31日)
日本カード製造株式会社
プラスチック削減でデジタル化
日本カード製造株式会社は1986年に創業し、高崎市の製造工場を拠点に診察券・学生証・会員証・ポイントカード等のカード製造、販売を業務としている。住谷社長は42歳の若さで、創業以来、同社の中心として手腕を発揮してきた。
「カードの印刷、加工までの一貫した生産体制を有し、ICカードにも対応しています」と住谷社長は語る。民間企業、医療機関、公共機関など取引先は幅広い。
レジ袋の有料化に見られるようにプラスチックの削減が社会課題となり、住谷社長も問題意識を持ってきた。廃材のリサイクルに業界としても取り組んでおり、海洋や生物への影響を軽減するため、自然分解するエコ素材によるカードの製造・普及に力を入れてきた。自然分解する素材は、時間がたつと劣化が進むので長期間の使用・保管が求められるカードには適さない。
住谷社長はSDGsに貢献できる企業づくりに取り組もうと意を決し、カード製造会社にも関わらず、実物のカードが不要の「デジタルカードシステム」の開発を進めることにした。
システムが完成すると事業展開をはかり、業界の見本市などにも出展した。「カードを無くす動きを進めることは、自分で自分の首を絞めるような話で、同業者からは、カードから撤退するのですかとあきれられました」と住谷社長は苦笑する。「なくすことを恐れていては生き残れない。SDGsにスピーディにチャレンジできた」と手応えを感じている。
学生証表示アプリ「デジ学」を開発
デジタルカード発行システムは、カードの機能をデジタル化し、スマホにアプリとして搭載することでプラスチック使用量を削減するもの。大型店・量販店ではポイントカードのアプリ化が進んでいる。
住谷社長は、顧客のニーズと業界ごとの特性を踏まえ、まず学校・専門学校向けに特化し、デジタル学生証発行システムと学生証表示アプリ「デジ学(デジタル学生証の略)」を開発した。
発行システムは学校側で運用し、学生はアプリを使用する。安心して使用できる環境を整えることがシステム開発の大きな課題だったそうだ。なりすまし等の不正行為ができないセキュリティの仕組み、安定して使用できるサーバー環境等、スマホアプリに求められる信頼性を追求した。
アプリを通じて学校からの連絡事項を学生に発信したりすることも可能。緊急事態の連絡網として利用することもでき、学生証だけにとどまらず、デジタル化ならではの付加価値を提供する。
デジタル学生証の普及で利便性拡大
学生証の作成、発行、配布は、学校事務局にとっても負担の多い事務作業となっている。デジタル化することで、事務局の作業負担を軽減し、紛失による悪用の心配、再発行の手間もなくなる。
日本カード製造でも年間に作製する学生証の枚数は数万枚に及び、デジタル化により相当量のプラスチックが削減できる。住谷社長は、スマートフォン保有率の高い世代である専門学校、短期大学、大学の生徒をターゲットにデジタル学生証の普及を学校、学生と連携しながら進めていきたいと考えている。
一方「全てのカードがデジタル化できるわけではなく、プラスチックのカードを併用することも必要」と住谷社長は語る。IDカードを名札ホルダーで常時携帯し、身分証や入退館キーとして使用するケースもある。また「デジ学」導入校でも学生によっては学生証カードを発行する必要もある。公共交通の学割適用も今後の課題という。スマホ決済に見られるように、デジタル学生証も社会全体に普及・浸透が進めば、スケールメリットにより利便性が高まると住谷社長は期待している。
利益の出せるSDGsをめざす
デジタルカードシステムの開発では、自分たちが蓄積したカードのノウハウを盛りこみ、社内でアイデアを出し合った。「苦労もあったが、とても楽しかった」と住谷社長は振り返る。
デジタルカードの開発を進めることで新たな雇用の創出やテレワーク業務を推進することも可能であることもわかり、SDGsの目標「5・b 女性の能力強化(エンパワーメント)促進のため、ICTをはじめとする実現技術の活用を強化する」に寄与できる。
住谷社長は、難関とされるSDGs検定にも合格し、子どもたちに向けてSDGsの講師も務める。「SDGsは自分たちの問題だよ」というメッセージを、発信していきたいと住谷社長は考えている。
現在、全てのカードを抗菌加工しようと設備投資し、工場を改修しているそうだ。「SDGsの取り組みから、新しい事業が展開できた。利益の出せるSDGsをめざしていきたい」と意欲にあふれている。
日本カード製造株式会社
代表取締役 住谷一宏さん
高崎市下小鳥町222
TEL.027-361-6982
高崎商工会議所「商工たかさき」2021年8月号