どうする? 増え続ける『空き家』
全国で820万戸が空き家に
(2015年07月31日)
「特措法」で国も本格的な対策に乗り出す!
国内にある建物の中で13.5%、戸数にして820万戸が空き家となっている。高崎市内で見ると14.8%、26,450戸が空き家であり、全国平均よりも高い割合を示している。戸建ての空き家はその内の約11,000戸だ。
防犯、防災、景観など様々な理由で空き家が社会問題となっているが、今後も増え続けることが予想される空き家をどうしていけばいいのだろうか。
高崎市では、空き家緊急総合対策事業として、空き家の管理、解体、活用のための助成制度を昨年度からスタートさせた。また、国では5月26日から「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、特措法)を全面施行させ、対策に乗り出した。
「商工たかさき」 2015/7号より
●市内では6〜7戸に1戸が「空き家」
平成25年度住宅・土地統計調査によると、国内の総住宅数は6,063万戸と5年前に比べ305万戸(5.3%)増加。空き家率は13.5%と0.4ポイント上昇し、過去最高となった。
市内では、5年前の調査と比べ空き家戸数は1,730戸増加しているが、空き家率は0.2ポイント下降した。これは新築戸数が増えていることが理由となっている。しかし、全国平均と比較すると、空き家率は1・3ポイント高い。空き家戸数は県内12市で最多。内訳として65%が共同住宅であり、空き家戸数を引き上げている理由であると考えられる。
いずれにしても6〜7戸に1戸は空き家である。ますます増えていくであろう空き家をどうするのか。解体、活用などさまざまな対策を講じていく必要に迫られている。
●特措法で空き家問題はどう変わる?
新築至上主義の時代において、空き家は住宅行政の重要な課題として取り上げられることが少なかった。建物が建っていると、土地に対する固定資産税が面積に応じて3分の1または6分の1に減免されるという住宅用地特例がある。これは住宅が不足していた1973年に建設を促すために設けられた制度だ。しかし、今となってはこれが空き家増加の一因とも言われている。使われなくなった建物を取り壊すと、固定資産税が上がる。そうならないために、空き家でもそのままにしておいた方がよいからだ。
5月から完全施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」では、防犯、防災、景観などの観点から適切に管理されていない場合は、「特定空家等」として行政から認定される。特定空家等に認定されると前述の住宅用地特例が除外される。また、所有者に対して適正な管理を行う旨の勧告や命令を出すことができる。それでも改善されなければ、最終手段として行政による行政執行が行われ、強制的に解体されることになる。
そして、行政内部において固定資産税台帳の利用が可能になったため、これまで所有者探しは登記情報から探すしかなかったのだが、登記変更していない建物や登記そのものがされていない建物もあった。これらの所有者を探すことがネックとなっていた物件についても固定資産税情報から接触できる可能性が高まった。まずは特措法の全面施行によって、行政が空き家対策を進めていく環境が整ったことになる。
▼空き家対策特措法のポイント
■空き家の情報収集
・所有者の把握に固定資産税情報を活用することが可能
・市町村に立ち入り調査を認める
■倒壊の危険などがある
空き家への措置
・市町村に撤去や修繕に関する指導、勧告、命令の権限
・従わない場合は強制撤去も可能に
●高崎市による緊急総合対策事業
高崎市では平成26年度より空き家対策を進めている。空き家の管理・老朽危険空き家の解体・空き家の活用を支援する助成制度として、7つのメニューを用意している。
昨年度の実績として、222件に対して約2億円が助成された。最も多く申請があったのは、解体助成金で162件。中には解体業者が、制度の活用をうたい文句にオーナーに営業活動を行っていた事例もあるようで、件数を押し上げた要因の一つと思われる。
活用事例としては、倉賀野コミュニティセンター、本町ミニ集会所など13件がサロンとして生まれ変わった。空き家が改修され、地域コミュニティの拠点として活用され始めている。
●空き家活用を難しくする、それぞれの事情
元紺屋町にある「MOTOKONYA」は、レンタルスペースとして様々な利用者に活用されている
不動産市場に出ない休眠建物には、空いたままになっている理由がある。相続に関係するトラブルだったり、不動産オーナーが市外や県外に在住していて無関心だったり、あるいは家財道具がそのままになっていて貸し出せる状態ではなかったりと事情は様々だ。
また、「貸さなくても収入面で困らないので、貸す必要がない」と考えているオーナーも多い。あるいは「以前貸していたが、家賃滞納や近隣からの苦情などのトラブルがあって、貸したくない」という声も聞く。
空き家や空きビルなどは、それぞれが一つの不動産ではあるのだが、地域として見ると、いくつもの建物が集積してまちを形成していると言える。使われない建物が増えれば増えるほど、まちの魅力も失われていくことになる。
これからの時代は、休眠不動産をまちのストック(資源)として捉え、それをいかに活用していくかが重要になる。
●広がるリノベーションまちづくり
リノベーションスクールで実施されたプレゼンテーションの様子
全国的にも様々な空き家対策の取り組みが始まっている。中でも注目されているのが、リノベーションによるまちづくり。「リノベ―ション」とは本来、建物を改修工事によって、用途や機能を変更して性能を向上させたり、付加価値を与えるという意味の建築用語であるが、最近では縮退する社会の中で、疲弊した地域を再生するために、遊休不動産を活用して都市型産業の集積を行うまちづくり手法を表す言葉として用いられている。
北九州市では、商店街の空き店舗増加、テナントの撤退による空店舗・空室の増加、就業人口の減少、建物の老朽化などの問題が深刻化していた。平成22年、小倉地区を対象として、デザイン業やコンサルタント業などの都市型ビジネスを集積する施策として、「小倉家守構想」を策定。リノベーションによって空きビルなどを有効活用する事業をスタートさせた。
●リノベーションスクールでまちが動きだす
「小倉家守構想」を具体的に進めていく事業として、平成23年より「リノベーションスクール」が始まった。全国から集まった受講生が、4日間泊まり込みで課題となる遊休不動産再生の事業計画と収益計画を策定して、最終日に不動産オーナーにプレゼンテーションするというスクール形式の事業。毎回100人近い受講生が参加し、10ユニットに分かれて、それぞれに与えられた物件について、喧々諤々の議論を重ねてプランを練っていく。議論の方向をより完成度の高いものに導いていくのは、ユニットマスターと呼ばれる建築やまちづくりなど様々な分野の第一線で活躍する実践者が名を連ねる。最終日には徹夜でプランを作り込むほど、参加者たちはチーム一丸となって盛り上がる。
北九州市では、過去8回のスクールによって24物件、9か所で新規事業が立ち上がり、15か所で事業準備が進んでいる。新規事業によって約250人の雇用も生まれている。
今では、リノベーションスクールはまちづくり手法の成功事例となり、浜松、鳥取、熱海、豊島区などでも実施されている。
●行政と民間が両輪となった取り組み
リノベーションまちづくりの特徴は、行政とパブリックマインドを持った民間まちづくり会社が両輪となって進めている点だ。両者が一体となってスクールの開催や不動産オーナーへの啓蒙活動、空き家を使った事業実現に向けた支援などを行っている。事業は原則的に、補助金などに頼るのではなく、投資と回収について実現性の高い収支計画に基づいて進めていく自立型である。
行政は規制緩和やビジネスプランへの評価を行い、金融機関からの融資を受ける後押しをするなどの役割を担う。民間まちづくり会社は、現代版の“家守”となって、建物管理や入居者支援などを行う地域のマネージャーのような役割を担う。そこに不動産オーナーや地域のキーマンが加わり、チームとしてまちづくりを行っていく。いくつかの都市では、この「官民連携」と「空き家を活用したリノベーション」によって、少しずつまちなかに変化が生まれようとしている。
●高崎でも空き家の活用が動きだす
高崎のまちなかでも空き家を活用して、お店や住居にする動きが始まっている。本号のグラビアで紹介した椿町の「灯り屋」、本町で器の販売や料理教室などを開く「matka」など、個性的な空き家を上手に活用したお店だ。空き家を活用する魅力は、家賃が低く設定できたり、建物を改装するのに制約が少ないことなどが挙げられる。
多少不便だったり、古くても「そこが個性」と感じる利用者が、不動産情報にない空き家を探している。
まちなかには、まだまだ使えそうな場所が沢山ある。空き家は、まちに多様性を作りだす可能性を秘めた資源である。
■空き家緊急総合対策事業
1. 空き家の建物内部の清掃や敷地内の除草にかかった費用の一部を助成
2. 解体費用の一部を助成
3. 解体跡地の除草等にかかった費用の一部を助成
4. サロンとして活用する場合、改修費用の一部を助成
5. サロンとして借りる場合、家賃の一部を助成
6. 住居として活用する場合、改修費用の一部を助成
7. 倉渕、榛名、吉井の空き家を住居として借りる場合、家賃の一部を助成
※制度の詳しい内容は、下記へお問い合わせください。
高崎市建築住宅課空き家対策専用
電話:027-321-1314
(商工たかさき・平成27年7月号)