進化する飲食業-チャンスを創出(3)
(2020年02月27日)
食を中心に伝統文化の発信と継承
㈱日本料理 WABIやまどり
オーナーシェフ 新井 茂さん
高度な調理技術や食材、器、お茶やお華への深い造詣など、和食の料理人は何年も修業を積むことで初めてプロとして認められる。新鮮で多様な食材、優れた栄養バランス、自然の美しさや季節の移ろいを映し、年間行事との密接な関係性などから世界無形文化財に登録され、世界的にも認識されている。
高崎駅東口のホテルココ・グラン高崎1階にある日本料理店「WABIやまどり」の料理人・新井茂さんは、15歳でこの道を志し、7年前にオーナーシェフとして同店をオープンした。「食材を好きに選んで使用できるのが、オーナーシェフのいいところです」とほほ笑む。日常的に気軽に利用できる料理店とはいえないが、ハレの日や記念日、大切な人をもてなしたいとき、今日はちょっと贅沢をしようというときに、利用したくなる料理店といえる。
店舗には、新井シェフのこだわりがちりばめられている。特に入口の天然木で作られたどっしりとした門が目を引く。これは、食の神様が祀られている伊勢神宮の正宮に見立てたもので、日本の豊かな食材への感謝の気持ちを込めて建てたもの。季節に応じて掛けられる暖簾をくぐるとき、自然に頭を下げるようにできている。「こうした門は京都などで時々見ることがありますが、関東では珍しいです」と話す。
県産の食材の美味しさを伝えたいと、群馬県の県鳥の“山鳥”を店名とした。特に、飼育の仕方にこだわるため生産量に限りのある高崎産の“増田牛”や“江原ハーブ豚”を使用。品質や美味しさ、生産者の想いを伝え、地元の素晴らしい生産者を守り育てることにも貢献する。
一方で、給料をしっかり稼げる料理人に育てたいと、弟子への指導に丁寧な姿勢を貫く。おかげで、旅館の女将などから「ウチの厨房に欲しい」とお弟子さんたちは引っ張りだこという。
店内には、1人でも気兼ねなく利用できるカウンター席、人数に合わせた個室があり、シェフとお店を貸し切れる日曜日特別会食(2名から)、ブライダル会社と提携した披露宴会食プラン(10名〜46名)の要望に応え、テイクアウト用に3種類のお弁当メニューもある。「料理人としてできることは、できるだけお客様の求めに応じています。時には学校から食育の話を頼まれることあります」と言う新井シェフ。料理人をやってきて、心から良かったと思うエピソードを聞いたところ「余命いくばくもないという方に、最後の晩餐に当店を選んでいただいたことです」と答えが返ってきた。
食材にこだわり、心を込めて調理し、大切に使い切る。最善を尽くして提供される料理は、目で楽しみ、舌で堪能し、食材のストーリーに耳を傾けることで、珠玉の感動体験にもなる。
高崎商工会議所『商工たかさき』2019年11月号