求人難時代の切り札か「海外高度人材」(3)
(2019年08月31日)
高度人材に大きな可能性
町田ギヤー製作所は今秋にベトナムから2人の高度人材を採用する。町田和紀社長は今年3月にベトナムを訪問し、現地で面接試験を行った。「弊社では、ベトナム人実習生が働いているなど、外国人採用にハードルの高さはなかった」と振り返る。
町田社長は株式会社シバタエンジニアリング(甘楽町)の柴田晃佑さんを通じて、ベトナムの送り出し機関で人材開発の「ウィンウィンジャパン」を利用し、「現地の信頼できる送り出し機関の重要性を実感した」と言う。
柴田さんは海外人材を採用する際に大変な苦労をし、その経験を人材活用サービスとして業務に生かしている。町田社長はシバタエンジニアリングとウィンウィンジャパンの力で、海外の高度人材の採用が成功したと大きな信頼を寄せている。
現地国ベトナムで、町田社長が求める人材を募集し、その中から優秀な人材を一次審査して、町田社長が面接できるように段取りを組むのが、送り出し機関の業務の一つだ。日本の東京工業大学などに相当するベトナム最高水準の工業系大学の卒業生など、町田社長が驚くほど優秀な人材が面接に揃っていたそうだ。採用試験の環境も優れており、町田社長はNC旋盤のプログラミングを実施科目に加えるなど、日本でもできないような採用活動ができたという。
町田社長は「やる気に満ち溢れ、能力の高い人材に出会えた。卒業大学だけでなく、人柄や家族構成も見て、当社に適した人物を選考できた」と実感している。「ベトナムは田園が広がり、風景や文化風土も日本に似ているので共感できる」という。
ウィンウィンジャパンのホァン社長と伊藤均顧問が、採用者が来日する事前準備のために、4月末に町田社長を訪問するというので、同席取材させてもらった。
「ベトナムには日本に行きたいエンジニアは多い。ベトナムでは大学を出ても受け入れる産業、企業が十分に育っていない。日本は給料も良く技術を生かしたいと希望者は多い」と話す。日本企業側が求める人材を、大学等から集めてくることも、送り出し機関のネットワークと手腕によるという。「大学との信頼は厚いです」と言う。また、日本の企業に就職した後も「しっかりとフォローしていく」と話す。
町田社長が採用したベトナムのエンジニアは、同社の研修寮で日本語などの語学などを朝から晩まで猛勉強しているという。こうしたしっかりとした研修システムも同社の信頼につながっているそうだ。
高崎に永住できる人材を
林製作所では7月にベトナムから採用した若者が仕事に就く。林司社長は3月にベトナムで8人の面接を行い、男性2人の採用を決めた。もう一人の採用者は半年間の日本語研修を行い、10月に入社するそうだ。同社では、これまで海外技能実習生の受け入れ経験もなかったので、初めて外国人と働くことになるという。フィリピンも考えたが、町田ギヤー製作所も参考にしてベトナムに決めたそうだ。
7月に来日するトゥオンさんは、日本語能力試験でN2レベルの認定を持ち、日本語研修の必要がないことから、早期入社が可能となった。日本語能力試験は初心者のN5レベルから始まり、N2レベルは日本の新聞や雑誌を読め、通訳もできるレベルだ。トゥオンさんは以前実習生として来日し、将来は日本で働きたいと決意。母国に戻ってから大学で学び直し、高度人材の条件を満たした努力家だ。既に結婚しており、妻も日本で暮らして日本で子どもを育てたいと希望しているそうだ。
「単なる夢ではなく、しっかりとしたライフプランがあり、家族の同意を得ていることも採用した理由」と林社長は語る。「高崎でしっかりとした生活基盤を築き、永住して働き続けてほしい」と林社長は考えている。
林社長も「求人しても応募が来ない。状況が大きく変わってしまった」と求人難に直面していた。「これまで高度人材の活用は経営方針に入れて来なかったが、昨年末に舵を切っていこうと判断した」という。中小企業の場合は、発生主義の中途採用が多い。「日本人の人材に来てもらえるように、もちろん努力は続けていく。でも待っていられない。海外の高度人材は計画的に採用できる」と経営計画を踏まえた採用を重視している。
林社長は、推移を見ながら今後も高度人材を増やしていきたいと考えている。「国籍は問わないが、会社の中が多国籍になるのは考えものでしょうね」と笑顔を見せる。
おわりに
採用した高度人材は「やがては会社の幹部になってほしい」と各社とも大きな期待を寄せている。「外国人が外国人を指導する時代、日本人が外国人の配下で働く時代が、高崎の中小企業にもまもなく訪れるでしょう」と見ている。「外国人を安価な労働力と考える時代は、既に終わっている」という。
今回はフィリピンとベトナムで優秀な人材を採用した事例を紹介したが「日本企業がフィリピンやベトナムの人材に食指を伸ばしており、数年後には優秀な人材を見つけることが難しくなるかもしれない。今が人材を見つけるチャンス」という声も聞こえた。
例えば外国人労働者が個室ではなく、数人が一室で暮らしていることをあたかも悪いこととして報道する例もあったが、個室ではなく、みんなで一緒に暮らすことを希望する国民性があることも知らなければいけないという。「国籍にとらわれず、人と人のつながりが大切。企業と地域、行政が連携し、高崎を外国人が住みやすい都市にしていくことが、優秀な海外人材を定着させることにつながる」と大塚社長は強調した。
高崎商工会議所『商工たかさき』2019年6月号