第33回高崎映画祭~受賞理由(4)
(2019年01月11日)
新進監督グランプリ・ホリゾント賞
新進監督グランプリ
野尻克己監督 『鈴木家の嘘』
とても豊かで温かな映画である。家族の死という深いテーマを扱いながら、人が生きるという事の本質に触れようとする。実直で揺るぎない信念が映画の中に見て取れる。
夫婦、親子、兄妹の関係性を多面的に提える事でそれぞれの人物像を丁寧に掘り下げていく。わかりたくてわからなかつた事を、どうやつたら手中に収めることが出来るのか。そのいくつかのヒントをこの物語は緩やかに静かに積み上げていく。誰の人生も豊かで温かいことを、希望を込めて描き出した珠玉作である。
春本雄二郎監督 『かぞくへ』
「家族」を主題に、人の結びつきや生き方、延いてはそこにある理論や理屈を超えた「何か」を描き出そうとする。
五島列島の養護施設で兄弟のように育った旭と洋人の物語が、硬質な語り口で綴られていく。彼らの人生を紐解くことで、「家族とは何か」に迫ろうとし、同時に、自分の人生にどう責任を持って生きるかを聞いかける。
人間の感情を大事にし、その機微を掬い取ろうとする映画作家の静かな意気込みが、全編を通して貫かれる。意欲的な映画作家の誕生を素直に喜びたい。
ホリゾント賞
『沖縄スパイ戦史』三上智恵監督・大矢英代監督
知りたいと思う事から全てが始まる。それは、人が忘れてはならない大事な欲望なのではないかと思う。戦後70年以上が過ぎ、その記憶の風化が叫ばれている。そうした中でこの作品が現代に形を持って生み出された意味の大きさを今一度考えたい。
長期にわたって取材を繰り返し、史実に向き合ってきたふたりのジャーナリストの勇気とその素直な欲求に、尊敬と賛辞を込めてホリゾント賞とする。
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