女性経営者が社員力を 生かす!伸ばす!
(2017年12月31日)
上段左 作能さん・清水さん 下段左から手塚さん・細谷さん・赤尾さん
女性の活躍が日本の成長戦略の一つとなっているように、女性が思う存分、力を発揮することが高崎の大きなビジネスパワーになる。高崎商工会議所の会員女性経営者に企業経営などについて話を聞いた。司会進行は当所広報委員会の作能小百合さん。
(ザ・ジョージアンハウス1997を会場に平成29年9月21日に開催)
細谷工業㈱代表取締役社長 細谷可祝さん
昭和電気鋳鋼㈱代表取締役社長 手塚 加津子さん
赤尾商事㈱代表取締役社長 赤尾 佳子さん
高崎女性経営者研究会(JKK)会長 菓心たつや 清水 公美さん
㈱レストランスワン取締役副社長 作能小百合さん
●細谷社長「幸せを追求していきたい」
作能■先日、全国商工会議所の女性研修会に参加しました。全国515会議所のうち2会議所が女性会頭で、26人も副会頭がいらっしゃるんです。女性専務理事が6人、商工会議所でも女性が大切な役割を担う時代がきています。私どもの飲食業は昔から女将さんなど女性が活躍していますが、製造業や建設業は男性社会でしょう。
細谷■当社は建設業の管工事業という業種です。昭和35年に父が創業し、当時は荒っぽいような雰囲気もあったようです。最近は男性も柔らかくなってきています。冷蔵庫の仕事から始まり、空調や給排水と広げてきました。
父の後を現会長が引き継ぎ、5年前に私が社長になりました。
お客様は食品関係が多く、最近はO157などの問題もあり社会の目はとても厳しいです。単に冷蔵庫で冷やせばいいという時代ではなくなりました。衛生やおいしさも追求されています。昔は冷凍しない方がおいしいと言われていましたが、今は冷凍したほうがおいしいというものもあり、時代が変わりました。
作能■時代に応じて細谷工業の役割も変わってきたんですね。
細谷■食品衛生に対するお客様に寄り添うように仕事をしなければいけない。お客様の課題をいっしょに解決していくような仕事のスタイルに変わってきています。
そうした中で社長になったので、もう一度、会社の理念や方針を見直し、再スタートしているという感じです。
作能■お客様に寄り添う、社員の気持ちになるなど、女性ならではの感覚が入っているのかなと思います。
細谷■なんとか社員が幸せになれるようにがんばっていきたいと思っています。幸せの追求の仕方も変わってきているのではないでしょうか。社員・お客様・社会の3つの幸せ追求をみんなで考えていきたいと思います。
作能■すてきですね。
●手塚社長「信頼と協力が良い製品づくりに」
手塚■祖父が興した会社で鋳物を作っております。大型の建設機械の部品ですとか、小さいもので5㎏、大きいものは4tくらいあります。鉄を溶かして部品を作りますので、非常に荒々しい仕事で、現場は男性ばかりです。父も私に継がせることは無理だと思っていました。女性がやれる仕事ではないと。私が継ぐということは、予定外、予想外だったのですが父が亡くなって、予定外の私が会社に飛び込んでいって社員もとまどったことと思います。
今、思い出すとみんなに迷惑をかけたなと思いますけれど、年月の中で社員が求めているものを一つひとつ実現し、信頼が生まれ、みんなで協力して、いい製品を作っていこうという会社になっています。
作能■私は見学にうかがったことがあります。本当に大きな溶解炉があってびっくりです。
赤尾■迫力がすごいですよね。手塚社長のイメージと違いました。
作能■整理整頓で仕事の効率を高めたお話を教えていただけますか。
手塚■どうやって会社を良くしていこうかと思う中で、片付けや掃除はみんなが力を合わせることができると考え、掃除を取り入れ5S活動を始めました。私が言うのはおかしいですが、整理整頓が行き届いた会社だと思います。
作能■机の引き出しの中まで、ほんとうにきれいなんです。
手塚■私自身は、あまり整理整頓は上手ではなくて(笑)。コンサルタントの先生にお手伝い頂いているのですが、まかせきりではなく、私もいっしょに社内を回るよう心掛けました。
●男性はもっとコミュニケーション上手に!
手塚■社内を回ってみて、いろんな場面で「通訳」ってすごく必要だと思いました。男性方を見ていると、うまくコミュニケーションできない場面に遭遇します。こう言えばうまく通じるのにと思って、日本語を日本語に通訳して、あっちに行って、向こうはこう言っているわよって、間に立って話をしながら、会社を一つにまとめていくことを心掛けています。
作能■言葉にするのが苦手な男性っていらっしゃいますよね。
赤尾■コミュニケーション力は女性のほうがあるのかもしれません。
手塚■仕事にプライドを持つことは大切ですけれど、そんなところで意地を張らなくてもと思う時があります。
清水■家族経営の場合は、父と息子も意地の張り合いがありますよ。
赤尾■男性って「教えて」って言うのが苦手。
細谷■なかなか相手をほめないことも多いですね。男性はほめ下手な人が多い。厳しくしないとダメだと思っている人もいますが、実は照れくさいというのもあるようです。
清水■あと、ミスしてもなかなか「ごめんね」と言わない。謝りにくいのかな、男性のほうが。
●赤尾社長「男社会で光る女性の感性」
赤尾■私どもは一言で言えば石油製品全般を扱っています。昭和26年の創業で、ガソリンスタンド、LPガス、産業用の燃料や潤滑油などを販売しています。私が社長になって9年経ちました。社長になる数年前から会社には出ておりましたが、今、考えると、本当に何もわからずに社長になってしまったと思います。
ひと昔前まで、ガソリンスタンドもクルマも男のモノみたいなイメージでしたが、最近は石油業界の中でも女性の社長さんが出てきたり、高崎も女性経営者が増えていますよね。
作能■そうですね。
赤尾■長い間、女性は事務か、現場では補助的な役割が多かったのです。ここにきて女性の店長が出てきたり、店長ではないけれど、自分で工夫しながらステップアップをめざす女性もいます。しっかりした女性がいるサービスステーションは、今頃ですとハロウィンの飾りつけとか、細かい心配りができています。男性のいいところ、女性のいいところを合わせて初めて力を発揮できるのではないかと思います。これから女性の営業職も増やしていけたらいいと考えています。
細谷■女性のやさしさ、やわらかさを生かせる仕事は多い。私の場合はアイデアを出すだけで、「社長、またですか」って社員がみんな迷惑な顔してますけれど。
手塚■アイデアが豊富っていうのは女性の特質だと思います。
細谷■定年を迎えられた方の採用をしてみたのですが、いい方々が集まって下さいます。元気でバリバリで、こちらも良い刺激を受けます。
赤尾■うちも女性のリーダーとリタイアした年輩の人のチームが成功しています。長く責任ある仕事をされてきた人たちなので、責任感があって、やりがいを求めています。長時間働かなくても、自分の楽しみに生かせるくらいの収入を得たいという働き方です。
●清水会長「女性の起業が増えてきた」
清水■今年から高崎女性経営者研究会(JKK)会長を務めています。本業は筑縄町で和菓子屋をやっております。昭和47年に主人の父が開業した店です。和菓子屋で働いていて、主人と知り合い、和菓子屋に嫁いだので、この業界しか知らなかったのですが、JKKに入って、違う世界のことを知ることができました。
作能■JKKは何人くらい会員がいらっしゃるのですか。
清水■22人です。私が入会した頃に比べると、女性一人の起業が増えてきていると思います。飲食や美容などのサービス業ですね。以前は土日曜日が休みの会員が多かったですが、今は平日休みの会員も多く、会合に集まりにくくなっている一面もあります。
作能■高崎はJKKとおかみさん会があって女性が活発ですよね。
●作能副社長「結婚・子育て退職が課題」
作能■私どもは前橋の会社ですが、20年前に江木町にザ・ジョージアンハウス1997を建て、皆様に支えられて経営できたことに感謝しています。
結婚式の仕事を担う女性のプランナーが大勢おり、女性が活躍している会社です。レストランのチーフなど女性の管理職は出ていたのですが、結婚や産休で退職し、入れ替わりがあるのが悩みどころです。ごそっといなくなってしまう時期もあります。再雇用とか女性社員に対するケアとかどうされていますか。
手塚■やめないですむ、女性のキャリアがM字カーブにならないで、継続して働いてもらえるように、働く時間の時短ができたり、工夫しながら働いてもらえたら、一番いいですよね。女性が継続して働けるような職場をめざしていこうと、業界を挙げて取り組んでいます。
作能■親の介護の問題に悩んで退職してしまう社員も出てきていますね。
手塚■子育ても介護も深刻化しています。女性も男性も休暇を取りやすい制度が必要です。
赤尾■人手不足がわかっているのにうまく対応できない。私どもの会社でも育児休業制度を実際に活用した例は多くはありません。
●多様化する働き方に対応を
細谷■人手不足は慢性的で、これから一層、進んでいくと思っています。女性の技術者も何人かいて、仕事と育児を両立させ課長になっている人もいます。能力も高くて、うちの初めての女性管理職としてがんばっています。
管理職の登用は、本人たちがそれを求めているかどうか、ということもあるんです。やりたいと意欲を持っている女性はどんどんやってもらい、手を上げてくれたら登用していきたいと思っています。
働き方ですから、逆に管理職に就きたくないという人には、違う道を作ってあげるのも必要なのだと思います。男女ともに働き方の仕組みを変えていかなければならないですね。マネジメントが得意な人もいれば苦手な人もいる。技術者として一生懸命がんばりたい人の道も作っていきたい。役職、職能要件などを思い切って見直しているところです。なかなかうまくいかないんですけど。
赤尾■管理職としてステップアップしていくコース、技術を高めていくコースを考えて、がんばってほしいと考えていますが、なかなか思いが伝わらないところもあります。
作能■そこまで細かく気遣えるというのは女性経営者ならではかもしれない。子どもを育てるような目線ですよね。
細谷■昔はあまり感じなかったのですが、今は会社が家族に思え、社員の人も、私よりも年齢が上でも下でも、みんな私の子どものような感覚になってきました。
作能■みんなかわいく思えますよね。
赤尾■社員の成長を我が子の成長のように喜べる感覚が女性にはありますよね。
●女性が働きやすい時代に
手塚■経営では売ることがすごく大事です。女性であることに甘えてはいけないと思っていますが、お客様にかわいがってもらっている部分もあると思います。
赤尾■まだまだ業界に女性経営者が少ないせいかお客様に覚えていただけます。
作能■得だなって思うこともありますよね。
手塚■もし自分が男だったら、呼ばれない場もお声をかけていただき、女性であることで下駄をはかせてもらっていることもあるかもしれません。
作能■女性が働きやすい時代になったと言えるかもしれませんね。
清水■親の時代から比べれば、女性が働きやすくなったのは事実だと思います。昔はどんなに忙しくても女性が食事を作らなければいけなかった。今は手を抜くということではないのだけれど、洗濯機は自動で乾燥までできて、掃除はロボット掃除機にある程度してもらえる。お風呂もスイッチを押せばわくし、食事もいざとなればなんとかなる。そう考えると、昔ほど家事に時間をとられず、働きやすくなったのではないか。その分、子どもの教育とか、必要な時間が増えたのでしょうけれど。
●大変だからこそ幸せが実感できる
赤尾■今の仕事に出会えて、本当に幸せだなって思うことはありませんか。この仕事がなかったら私は何をしていたかなって。
作能■大変なこともたくさんあるけど、幸せなこともたくさんある。
赤尾■大変なことがたくさんあるから、ちょっとうまくいったこと、ちょっといいことがあると、すごく幸せに感じられる。簡単にうまくいってしまったら、そんなに幸せは感じないかもしれません。
手塚■苦労って本当に多いですよね、みなさん、こうして笑顔で話されますけれど。
細谷■女性だからということで、厳しくされたり、いじめられたりということはないですよね。男性の経営者のみなさんって、ジェントルマンですね。
社長は何もできないからって、社員が私を助けてくれるということは、たくさんあります。幸せ者です。
手塚■若い女性のみなさんも仕事で生きがいをみつけてほしい。今は子育てや家庭で大変かもしれないけれど、いつか自分の人生の宝物になるから、仕事を続けてもらいたい。
赤尾■私どもの会社は、子育てが終わった女性が、新しく入社して再チャレンジしています。
細谷■職人の世界は、「女だから」って見られたりするのでしょうか。
作能■女性だから、ということは今は少ないでしょうね。調理師に夢を持って入ってきても、重いとか、冷たいとか、寒いとか、辛くて退職してしまう事は男女共にありますけれど。
清水■ケーキ屋さん、パティシエは女性が多いです。
作能■女性シェフも増えていると思います。特に外国では。
赤尾■実力主義ですね!
細谷■男性社会の中でもがんばりたいという女性はいるんです。そういう女性とうまくマッチングすると、お互いに幸せです。
赤尾■社内でがんばっている人を評価するという意味でもすごく大事ですよね。
●これからの経営・これからの高崎
作能■これからの夢や取り組んでいきたいことを聞かせてください。
細谷■長野県の伊那食品工業の塚越会長の話を聞いた時に衝撃を受けました。毎年、少しずつ成長する年輪経営という考えです。急激に成長すると会社が倒れてしまったり、成長の弊害が出るので少しずつ会社を成長させながら、社員の幸せを追求していきたい。
社員がお客様のために仕事をして、ありがとうと言ってもらえる仕事をし、対価をいただいて成長していける会社をつくっていきたい。会社の永続が自分の夢であり使命だと思います。
手塚■高崎は高速道や新幹線があって、東京に1時間、私どもは北陸や茨城のお客様に向かうにも便利です。高崎の地の利は本当にすばらしいと思います。この地にしっかり根を張って日本中のお客様とネットワークを作っていければと思います。群馬は住むにもとてもすばらしい。温泉、ゴルフ、スキーがあるし、雨も少ない。
細谷■交通が変わっていくとビジネスも変わっていく。私どもは高崎の本社と、千葉、横浜に営業所がありますが、お客様のところに90分で到着できるところを商圏にしようと決めています。冷凍・冷蔵庫は食品を扱っているので、溶けてしまっては商品価値がなくなってしまいます。緊急コールに90分以内で到着することを社内のルールにしています。そのエリアを事業領域と考えて、しっかりと地元に根を下ろしてやっていきたい。
作能■守っていくべきものを守っていかなければならないですね。私の会社も、いろいろと他地域への進出のお話もいただくのですが、出ないと決めています。自分が守れる範囲をしっかり見ていく。拡大路線もありますが、出ないと決めるのも経営だと思います。
赤尾■最近は電気自動車の話題がにぎやかで、ショッキングなニュースです。石油の需要は10年ほど前にピークアウトしていて、これからは新しいことにどんどんチャレンジしていくつもりです。社員とその家族を守るため、新しい事業をおこし、100年企業を目指していきたいと思っています。だだ、まだはっきりとした道筋は描ききれてはいません。
作能■過渡期にいらっしゃるのですね。
赤尾■でも悲観ばかりしていられません。ピンチはチャンスかもしれません。明日からガソリン車が一台も無くなってしまうわけではありませんから、需要があるうちにしっかりと種まきをして育てていこうと思っています。社員にもアイデアをプレゼントしてもらって取り組んでいます。エネルギーに関連した商品や技術、サービスで未来を広げていきたいです。
細谷■お客様のご要望に沿ったものを、その地域の中で一生懸命やっていく。冷蔵庫がなくなっても、ものがおいしく長持ちする時代がくるかもしれない。お客様が何を必要としているかわかれば、変化していける、ずっとお客様の役に立てる。冷蔵庫や空調機を売るのではなくて、お客様の課題に耳を傾けていくと、どっちに行けばいいのかわかるのでないかと思います。
赤尾■ヒントはお客様にあると思います。求められることから広げていくことも大切です。
作能■まさに今、高崎駅周辺が開発されていますが、皆さん、どんな思いですか。
清水■自分たちが10代の時に見ていた高崎駅前のように、まちなかのにぎわいが戻ってくると期待しています。たくさん人が歩いて、歩きにくいくらいだったあの頃のように。
手塚■高崎アリーナができ、これから文化芸術センター、コンベンション施設ができ、イベントの器が高崎駅周辺にできて、それも駅から離れていないのはメリットですね。都市型のホテルも、もっと必要になってくるでしょう。でも駅周辺の駐車場がいつも満車では出張の方も困りますね。
赤尾■高崎で生まれて、高崎で育って、高崎に住んでいて、客観的にはわからないですけれど、転勤で高崎に来られた方は、高崎は本当に暮らしやすいっておっしゃいます。家を建てて高崎に永住される方もいます。
清水■高崎にたくさんの人が来てくれることは大切です。高崎に就職してくれる若者が増えて、高崎で家族をつくってくれて人が増えてくれれば、うちのようなお店にもお客様が来てくれるようになるかもしれない。
作能■みんなで力を合わせてそういたしましょう。。今日は楽しいお話ができました。本当にありがとうございました。
『商工たかさき』平成29年10月号