加速する業務機能の集積
(2017年05月2日)
〜高崎への集中が県内経済を牽引〜
高崎のビジネスは経済規模、事業所数・従業者数ともに群馬県内最大であり、群馬県経済を牽引する都市として、期待が強まってきている。高崎では、市内地場企業が着実に力をつけていることに加え、市外からの企業転入による相乗効果が生まれており、ビジネス活力、都市活力に加速感が感じられている。
「選ばれるビジネス都市」高崎に
●影響力のある企業が高崎に
現在の高崎のビジネスシーンを象徴する動きとして、大手企業の支店、営業所が市外から高崎駅周辺等への移転が目を引いている。
今回の特集は、市外から移転してきた企業を取材し、移転理由や高崎でビジネスを展開するメリットなどを聞いた。
取材先は、全国展開する企業として、株式会社帝国データバンク群馬支店(平成25年3月に前橋市より栄町・原地所第2ビルに移転)、株式会社JTB関東法人営業群馬支店(平成27年1月に前橋市より高崎駅東口の東町・ツインシティ高崎に移転)、株式会社ドコモCS群馬支店(平成28年12月に前橋市から高松町・NTT東日本高崎別館ビルに移転)、アサヒビール株式会社群馬支社(平成29年2月に前橋市より田町・太陽生命高崎ビルに移転)、地元企業としてソフトウェア開発で成長を遂げている株式会社クライム(平成25年2月に北群馬郡吉岡町から本社機能を栄町・高崎イーストタワーに移転)にお願いすることができ、高崎をどのように見ているのか聞くことができた。
高崎のビジネスにとって非常に大きな影響力を持つ企業の移転が実現できており、昨年12月のドコモCS群馬支店、今年2月のアサヒビール株式会社群馬支社と、ナショナルブランドの市内転入が短期間に連続していることにも注目したい。高崎がこれから動いていく方向を示すものと言えそうだ。
●群馬県最大のビジネス集積
高崎市は群馬県最大の経済規模を持つビジネス拠点であり、高崎駅周辺は東口エリアを中心に県内最大規模のビジネス集積を誇っている。
高崎では、交通利便性や都市活力によりビジネスの集積が進んできたが、近年は顕著な動きが感じられるようになっている。ドコモCS群馬支店は人員120人の大規模な引っ越しである。単に高崎に窓口の営業所を置くのではなく、高崎に腰を据えた拠点づくりが進んでいると感じられる。
県内はもとより、全国の地方都市が誘致奨励制度を設けて、企業誘致合戦が繰り広げられており、都市間競争は激しい。誘致制度を使って進出に伴う初期費用を抑えることも企業にとっては重要となるが、それだけで決まるものでもなさそうだ。
●選ばれる理由は高崎の「今」と「将来性」
高崎が選ばれる理由としては、新幹線等による交通利便性が真っ先に挙げられているが、「企業戦略においても高崎で事業展開することが重要」、「高崎の経済人とつながりを深めたい」、「高崎に立地することが企業イメージの向上につながる」、などの声も取材で聞こえている。また、全国の地方都市の中心部が伸び悩む中で、高崎駅周辺で進められている官民の都市開発は、高崎では都市への投資が積極的に進められ、更に発展していく期待感があるという。高崎市や高崎の産業界の熱意も進出を決める後押しになっている。
支店や営業所が高崎に移転することは、最終的には東京などに所在する本社が決裁することになるので、高崎が首都圏の企業トップに評価されていることがうかがえる。東京丸の内などで継続してきた高崎シティプロモーションを通じ、東京圏に高崎が認知されている意義は大きいと言えるのではないだろうか。
●駅を降りて直感する都市活力が必要
駅を出た時に目に入る風景やオフィス周辺の環境も、立地を決める上で考慮されることがあるそうだ。駅前に人影もなく、さびれていると、ビジネスも低調な印象となってしまう。
都市を印象づける発信力も重要だ。高崎では、豊かな都市文化が育まれていることが、企業に好印象を与え、音楽、映画、パスタなどは知名度が上がっている。
高崎駅周辺は商業施設やオフィスビルが立ち並び、高崎の中心市街地で最も通行量の多いエリアで、一日に延べ約5万人が通行し、にぎわいを見せている。また、高崎駅の乗客数も増加傾向にあり、平成27年は一日当たり約2万7千人で、前年度よりも600人増えている。
高崎駅西口の高崎オーパ(仮称)、高崎駅東口で高崎市が建設している高崎文化芸術センター(仮称)、高崎競馬場跡地で群馬県が計画を進めるコンベンション施設、高崎駅東西で高崎市が進めているペデストリアンデッキなど高崎駅周辺の都市整備は、ビジネス面でも活気を感じさせ、イメージアップにもつながる。
また、高崎アリーナでは年間を通じて数多くの国際大会が予定されているが、高崎駅周辺を往来する大勢のトップアスリートや外国人参加者などを来街者が見れば、高崎の都市力を感じ取ってもらえることになるだろう。
高崎のビジネス集積が進行
●事業所数・従業者数の伸びも最高水準
高崎へのビジネス集積は、これまでもデータにも示され、平成26年経済センサスで、高崎市の事業所数は1万7,331事業所、従業者数は17万2,668人で、それぞれ群馬県トップとなっている。また平成24年から平成26年の増減において、高崎・前橋・伊勢崎・太田などが増加し、特に高崎は事業所数が346増、従業者数が5,797人増となっており、ともに群馬県最大の伸びを見せ、拠点の役割を持つ都市への集中傾向が見られる。
今後の展望においても、高崎スマートIC産業団地や高崎オーパ(仮称)など高崎駅東西の開発により、数千人規模の雇用創出が見込める状況となっている。高崎市内だけではなく、県内や埼玉県北部からの従業者も集まり、高崎のビジネス集積は更に高まるものと考えられる。
ビジネス集積は、交流人口の増加や飲食や物販など日常的な消費を伴い、高崎の人口増やまちなか通行量の増加を促進すると期待できる。
●全国14位の商業力で集積が進行中
平成26年の高崎市の事業所数は群馬県全体の18.5%を占め、平成24年度に比べて0.4%増。従業者数は県内全体の19.2%を占め、平成24年度よりも0.2%増となり、群馬県内における高崎市の比重が高まっている。
事業所数、従業者数ともに高崎への集積が進んでおり、また全国14位の高崎市の卸・小売業の売上額は2兆6,910億円(平成26年商業統計)で、群馬県全体の43%を占め、圧倒的なシェアを持っている。
従業者数が増加している高崎市、伊勢崎市、太田市は人口も増加しており、転入による流入が増加要因となっている。ビジネス集積が人口を支えていると言え、特に高崎市は、春の異動期は、転出入による大きな流動が生まれている。高崎は3月の転出者数を4月の転入者数が上回っており、働く世代の増加を伴っている。単身赴任者は高崎市に住民票を移さないケースもあるので、高崎の実際のビジネス人口は統計等に現れる数字を上回っているものと考えられる。
●移転後は高崎の魅力を実感
高崎に移転した企業の声を聞くと、新幹線に直結した高崎駅周辺の立地により、利便性を強く実感しているようだ。東京都内や埼玉県から通勤しているスタッフは、通勤時間の短縮により生活にゆとりが生まれている。
また、飲食店が多いのでランチタイムが楽しみになっているそうだ。人事異動で高崎に配属になった場合は、高崎市内に居住することを選択する人もいる。
ビジネス集積の受け皿強化を
●集積が集積を拡大し都市ブランド力に
一つの企業が高崎に拠点を構えることが、関連する企業の進出にもつながっている。オフィスビルのエントランスに掲げてある看板等を見ると、メーカーと系列販社、保守会社がズラリと入居している様子がうかがえる。また大手企業は、相互に資本のつながりを持っているので、同じ資本系列の企業が高崎に進出する場合に便宜をはかるなど、次の企業の誘致につながってくる。ライバル関係にある企業がシェア拡大のため、戦略的に高崎に拠点進出し、しのぎを削るケースもある。
また高崎に支店・営業所を開設するメリットとして、高崎の産業界や市民が「高崎の会社」として愛着を持ってくれることを指摘する声もあった。企業への愛着ということでは、最も効果があるのは生産工場が立地することで、当地でのシェアに大きく影響し、高崎ではかつてのキリンビールが例として挙げられる。
取引関係にとどまらず、高崎は外から訪れた人を歓待する気風と義理人情に厚い歴史的な土壌があり、全国各地を回ってきたビジネスマンからは、高崎は仕事がしやすいという経験談が聞こえている。
全国のトップ企業の拠点が高崎に集まることにより、高崎の優れたビジネス環境を多くのビジネスマンに実感してもらうことができ、高崎の都市ブランド力が高まっていくことが期待できる。
●水面下で高崎移転を狙う企業も
高崎駅東西のオフィスビルは、上越新幹線開業に伴う高崎駅の建て替えや高崎駅周辺整備が行われた昭和50年代後半から建設されたものが多い。当時はバブル景気に突入し、駅周辺のオフィスビルは営業所・支店で満杯となったが、その後の長引く不況で集約や撤退も行われた。
しかし、撤退後も年間約60万人のビジネスマンが高崎に宿泊しながらレンタカーなどを利用して営業展開しており、高崎のビジネス拠点性が改めて認識されている。また平成20年にヤマダ電機本社が高崎駅東口に移転したことで、ビジネスに適した高崎のポテンシャルが内外から注目されることになった。
高崎スマートIC産業団地の募集に多くの企業が手を上げていたように、水面下で高崎への移転・進出を考えている企業は予想以上に多いようだ。
●受け皿不足の東口エリア、物件探しが難航
高崎駅前の立地の良いオフィスビルは満室状態で、需要に応える受け皿が現実的には不足している。特に交通アクセスに優れた高崎駅東口エリアの需要が多いようだが、数十人規模のスタッフを収容できる事務所スペースに加え、セミナー・講習会のための会議室、倉庫、駐車場も不可欠となる。できればワンフロアを全て借りたいという企業もあるようだが、条件を満たす空き物件を見つけることは難しい。
また大手企業は、エントランスや共用部など、企業イメージにふさわしいグレード感を求めるので、物件は限られてくる。また、どのような企業が入居しているかもチェックする。今回、取材した企業も、高崎移転を決めてから、実際に物件が見つかるまで一年以上かかった、高崎移転は歴代支店長に引き継がれた懸案だったという声もあった。入居後も業務拡張のために、ビル内に空きができたらすぐにでも借りたいというニーズもあるそうだ。
高崎駅周辺のオフィスビルは、空き待ちの箱不足の状況なので、入居企業が入れ替わるだけで事業所数、従業者数の増減はプラス・マイナス・ゼロ、頭打ちに近いとも言える。新しいオフィスビルとして、高崎文化芸術センター西側に計画されている業務機能エリアの早期実現が待たれるところだ。
●企業の力が地域に貢献
高崎では地元企業と大手企業の支店・営業所、行政の連携が地域発展の力となっている。
ビジネス集積は経済活動だけでなく、高崎の文化、スポーツなどにも波及し、都市のすそ野を広げていく。高崎映画祭のように、長きにわたって企業の地域貢献が大きな支えとなっている文化活動もある。また、企業の技術力などを生かした高崎市独自の福祉施策も実現されている。国内トップの実業団ソフトボールチームも高崎を拠点としている。地域の発展と企業の成長は一体と言われているが、取材の中で、高崎に新たな産業集積を誘導しようという考えも聞くことができた。高崎は地元を愛してくれる企業が集積していると言えるのではないか。
今回の取材のなかで「高崎のすばらしさが生かし切れていない」と指摘する声が多かった。高崎が持つビジネス利便性や高崎の魅力に、市民自身が気付いていないと言う。群馬に展開するための拠点は高崎という流れが生まれており、全国展開する視点から、押さえなくてならない都市の一つとして高崎が見られていることを、誇りを持って認識していく必要があるのではないだろうか。
高崎に移転したメリットは
●MICEと地方創生に力点
株式会社JTB関東法人営業群馬支店
鈴木 敏文 執行役員 支店長
都内や埼玉県からの通勤可能範囲の拡大、地域との関係を高めるために高崎に移転した。高崎は飲食店が多いのでランチを食べる店が増えたと社員が喜んでいる。
MICE(=会議Meeting、報奨旅行Incentive Travel、国際会議 Convention、展示会・見本市・イベントExhibition・Event)と地方創生に力を入れ、群馬県の発展に貢献していきたい。MICEにおける高崎の役割は大きく、全県への波及効果が期待できる。今まで東京など大都市にしかなかったコンベンション関連の仕事が、高崎でできるようになり、若者や女性が活躍する場が生まれてくる。
MICEではVIPクラスの宿泊施設不足が、インバウンドでは2次交通の整備が課題だ。群馬県は「すきやき県」を提唱しているが、海外に向けて発信した方がより効果的だと考えている。
群馬県民自身が群馬の良さを理解していない傾向にあり、群馬のすばらしさを生かしきれていない。旅の力を利用して地方創生に努力していきたい。
●本社指示の高崎移転
アサヒビール株式会社 群馬支社
伊澤 征大 支社長
高崎は飲食店が多く、中でも高崎駅から柳川町にかけては県内最大の飲食店集積地となっている。また、高崎駅は東京への玄関口ということもあり、全国系の飲食店が進出、東京の流行はまず高崎に入ってくる状況にあり飲食店を得意先とするビール会社にとっては、とても魅力的な地であると捉えている。
アサヒビールは原則、県庁所在地に支社を置くというルールがあり、長年前橋に支社を置いてきた。一方ライバルのキリンビールは、過去に工場があったことから高崎に支社を置いており、その為どうしても高崎の街はキリンビール色の強い市場と認識している。この度事務所を移転するにあたり、高崎への移転を決意したところ本社も快く了承してくれた。
高崎駅西口にアサヒビール、東口にキリンビール、ライバル会社の激しい戦いは高崎の市街地に少なからず刺激を与えることになるだろう。アサヒビールは高崎の街がさらに魅力的になるよう、飲食を通じて貢献していきたい。
●成長性と可能性のある都市
株式会社帝国データバンク 群馬支店
長瀬 崇 支店長
高崎駅東口前に移転に合わせて、名称を「前橋支店」から「群馬支店」に改めた。高崎は交通の利便性に優れ、自然災害が少ないほか、年間の日照時間も国内有数であるため、企業活動にも適し、成長が見込まれ、ビジネスチャンスがあると考えている。
高崎は群馬の玄関口であり、高崎駅を降りた時の印象が良い。高崎オーパ(仮称)や新しい音楽施設も建設されており、若い人が集まり、清掃がいきとどいている。高崎は成長性があり、これから更に盛り上がっていくと可能性を感じている。単身赴任者にとっても高崎は暮らしやすく魅力がある。
当社の調査で、首都圏からの移転先の企業数で群馬県は全国4位。2016年は倒産件数87社で、10年ぶりに100社を下回っている。一方、休業・廃業が倒産件数の6倍超ある。社長の平均年齢も群馬県は全国平均よりも0.2ポイント高い59.4歳で、後継者や人材育成、企業の稼ぐ力が大きなテーマになると感じている。高崎が群馬県の牽引力となってほしい。
●高崎移転のメリットが大きい
株式会社ドコモCS群馬支店
山崎 正勝 支店長
自動車電話が主流だった時代は、前橋市郊外の東善町の事業所は自動車電話を据え付ける為の工事施設も備えており、県内各所からのお客様が自動車でご来店頂く利便性があった。携帯電話の時代を迎え、ドコモショップ等での販売が主流となり、東善町の群馬支店は公共交通機関の利便性の問題から、ほとんどの社員が自動車通勤を必要とする等のデメリットが顕在化し、長年の間、高崎への移転を考えていた。
120 人規模の物件はなかなか見つからず、新築ビルを建設し借用することまで話題に上がったが、NTT 東日本群馬支店の組織改編で別館ビルに空きができ、移転することができた。高崎駅から支店までは徒歩圏であり、社員の自動車通勤は9 割から1 割に減少した。公共交通機関の利便性から、人事異動による首都圏、長野、新潟との人員の流動も容易になり、またNTT との連携もスムーズになった。この点で高崎に移転したメリットは大きい。
今後、高崎市の方々とも膝を交える回数が増え、新しいおつきあいが広がるものと楽しみにしている。
●群馬を日本のシリコンバレーに
株式会社クライム
金井 修 社長
東京八重洲・神田・池袋、大阪、上海に事業所を開設し、660人の社員のうち約500人は東京で就業している。顧客のほとんどは東京のコンピュータメーカー等で、セキュリティなどのチェックのために吉岡町の本社に定期的な視察を迎えていた。最寄り駅が群馬総社駅であったので、新幹線に直結した高崎駅東口に本社を移転した。現在は2室を借りているが、できれば1フロアを、そっくり使いたいと考えている。
IT産業に夢を持ってもらうために、地域社会と子どもたちの未来のために貢献していきたい。自然災害の少ない群馬は、データセンター、バックアップセンターに適しており、群馬を日本のシリコンバレーにしていきたいと考えている。エンジニアが集まり、学生や若者がIT起業する地域として環境を整備し、群馬が発展するよう微力を尽くしたい。