ビジネス都市を支える宿泊業

(2016年10月18日)

高崎の宿泊施設は不足している?

ホテルココグラン(左)東横イン(右)

 高崎市内では大型施設の建設が相次ぎ、市内の旅館やホテルは建設関係者の長期宿泊で「建設特需」ともいえる状況にあるようだ。2020年東京オリンピックへの動きも期待されている。高崎の動きは非常に早く、現在の状況が統計として発表される一年後は、まちの様相は更に大きく変化しているだろう。今の高崎をいち早く把握するため、市内宿泊施設に取材した。

 
「商工たかさき」 2016/10号より

 

ホテルは高崎の顔-都市集客に不可欠な機能

●新幹線直結で9割が県外客

 ビジネスのまち高崎には、高崎駅周辺を中心に宿泊施設が集積し、高崎市内の年間宿泊者は66万人(※平成26年市町村別宿泊数から)、そのうち9割の59万人が県外客で、県内都市部で最大規模、高崎のビジネス力と宿泊能力は一体となっている。
 高崎のビジネス拠点性は「新幹線で東京から50分」の利便性を基盤とするもので、新幹線と直結した都市機能の集積が高崎の発展を牽引している。宿泊施設にとっても新幹線と直結した利便性がきわめて重要になる。高崎駅と直結、あるいは徒歩圏内であることが、大きな宿泊客数につながっている。「新幹線・宿泊・ビジネス」、「新幹線・宿泊・集客」が一体化していることが、他都市にない高崎の大きな強みである。
 

●ホテルの質と多様さが高崎の印象を左右

 宿泊施設が、高崎を訪れた人に、このまちの第一印象を与えると言っても過言ではない。来訪者が初めて接する「高崎の人」がホテルマンであり、宿泊施設の接客やサービス、食事などのクオリティが高崎の都市評価そのものとなる。
 宿泊施設は旅館、ビジネスホテル、シティホテルなどに区分され、料金や部屋のグレードなど幅広いニーズに対応できることが都市には必要だ。シティホテルにはグレード感が求められる。家族的な宿から、VIPに泊まってもらえるスイートルームまで幅広い宿泊機能を高崎は備えている。学会や国際大会を誘致すれば内外の要人が滞在することにもなる。
  

●高崎が拠点業務都市であることを示す

 全国的に名が知られた系列ホテルと地元経営のホテル・旅館による多様性も重要だ。全国系列のホテルや大都市に展開するシティホテルが高崎に所在することは、高崎が群馬の拠点都市であることをPRする役割を果たす。また地元ならではの中堅宿泊施設は、高崎の活力を示すもので、宿泊の選択肢の幅広さは、高崎が交流性の高い都市であることを表している。

多くのイベント開催が新しい高崎の姿を予感

●大勢の外国人が高崎のまちを歩く

 ビジネスに加え、高崎の交流機能を生かした集客戦略がいよいよ動き始めた。
 今年9月には、国際女子ソフトボール大会が城南球場で開催され、世界のトップチームが高崎に滞在した。同月末から高崎アリーナで開催された国際合気道大会では、1,000人の外国人客が宿泊し、高崎市内の宿泊施設は満室状態となった。高崎駅周辺や中心商店街では大勢の外国人が歩いており、飲食店や商店への来店も数多かったようだ。アリーナの近隣住民は「まるで外国にいるみたい」と話していたが、何日もこの風景を見ていると、高崎に大勢の外国人が集まっているのが、まるで日常のように感じてくる。
 これが、富岡賢治高崎市長が実現しようとする新しい高崎の風景なのであろう。高崎アリーナや高崎文化芸術センターなどの都市集客施設が描き出す高崎の近未来の風景を、実際に見ることができた。
 一方、大会やコンベンションで高崎に国内外から大勢、訪れるようになった時、宿泊者を受け入れることができるのだろうかと心配の声もある。
 

ビジネス需要に建設特需が上乗せ

●高崎中心部のホテルは高稼動状態

 高崎市の宿泊者数は、前述のように年間66万人で推移しており、その9割の59万人が県外客となっている。宿泊規模は、リゾート地、温泉地に匹敵し、県内都市部では群を抜いている。59万人の県外宿泊者のほとんどはビジネスマンで、一日平均で、1,800人から2,000人が宿泊していることになる。
 今回の取材によれば、高崎駅周辺から中心市街地の宿泊施設を見ると、総部屋数は1,350室。高崎中心部が宿泊機能で大きな役割を果たし、高い稼働率となっていることがうかがえる。
 

●明らかに増加している工事関係者

 ビジネスの宿泊需要に加え、数年前から高崎市内で大型施設の建設が続いており、建設関係者の長期宿泊が増加しているという。高崎市が発注する公共工事は、市内事業者が主体となるが、高崎アリーナのような専門性の高い施設は、市外の事業者のノウハウを導入している。
 また震災復興や東京オリンピックに関連する建設工事により、職人不足が常態化しているとされ、広域的に労働力を確保しなければならない工程もあるという。高崎に滞在している工事関係者の実数はつかめないものの、市内の宿泊業では伸びを実感できるほどに及んでいる。
 

●工事関係者の宿選び

 建設工事の宿泊特需では、土木、設備内装などの工程や作業員、技術者、現場監督などの職制によって旅館、ビジネスホテル、シティホテルの棲み分けが、はっきりと分かれている。
 長期で建設作業に関わる人たちは、低廉で朝夕2食付の旅館を好むようだ。1週間ほどの滞在であればビジネスホテルも候補となる。管理職クラスは一泊程度でホテルの宿泊もある。工事関係者の宿泊では、トラックやバンなどの車両を駐車できることも宿選びの重要なポイントになっている。
 

●特需の波はいつまで続くか

外国人宿泊客(神戸屋旅館)

 規模の大きな建設工事では、高崎市に関係する事業として、今春に完成した高崎市斎場、来春開館の高崎アリーナと田町の多機能型住居、今夏着工した高崎文化芸術センター(仮称)の建設はこれから本格化する。高崎駅西口で高崎オーパ(仮称)、宮原町で日本郵政の物流センターの建設も進められている。
 高崎スマートIC産業団地では、これから工場建設が始まる。また高崎スマートIC産業団地に近接した流通団地、高崎文化芸術センターの西側に整備される予定の集客施設、競馬場跡地の県のコンベンション施設、浜川運動競技場の拡張工事、専門性の高い施設では高浜クリーンセンターの建て替えも予定されている。
 大型商業施設の場合は、建物工事が終わるとオープンに向けて売り場の内装、商品の搬入・陳列に携わる人たちの動きが始まる。工場なども同様で、建屋の建設に加え、製造ラインの設置があり、技術者が一定期間、高崎に滞在することになる。工事特需での宿泊需要は、しばらくの間、続くものと考えてよさそうだ。
 こうした一連の都市開発の根底には、高崎のビジネス力がある。高崎の経済規模は県内最大で、市内企業による産業力や高崎の都市機能の充実が、宿泊者の増加につながっている。高崎を拠点として県内、近県を営業するビジネスマンの宿泊需要は増加しており、高崎の成長がビジネス宿泊を呼び込んでいる。
 

高崎の宿泊施設は足らなくなる

●東京に最も近い複合機能

 近畿日本ツーリストぐんま支店(高崎市あら町)の佐藤貢支店長は「高崎アリーナに加え、高崎文化芸術センターと県のコンベンション施設が完成すれば、高崎駅周辺で複合施設がコンパクトに実現できる。これだけの複合機能を持つ都市として高崎は、新幹線停車駅では東京に最も近く、利便性はきわめて高い。今、建設している施設が稼働し、大会やコンベンションを本気で誘致したら高崎の宿泊施設は確実に足らなくなる」と言う。
 「誘致が順調に進めば」という前提での話になるが、県外から大勢の参加者を集める場合は宿泊の確保が誘致の重要条件で、宿泊と大会誘致は、ニワトリとタマゴのような話になる。
 旅行事業者などが早い段階でホテルを室数枠で押さえる。学術会議のようなケースは、宿泊はシングルが主体となり、高崎だけでは容量が足りず、誘致の際には、前橋市、伊勢崎市などの近隣の宿泊施設、伊香保温泉なども候補にしておく必要があるという。
 

●東京オリンピックで海外客が高崎にも

 今年春、ポーランド男子バレーボールチームの合宿を成功させ、高崎市は2020年東京オリンピックにおけるポーランド選手団の事前合宿を誘致することができた。
 東京オリンピック期間中の海外観光客は、都内だけでは収容できないことが試算されており、首都圏での宿泊施設確保が必要となるようだ。新幹線で50分の高崎は、都内からあふれた海外観光客の受け皿になることができる。
 海外観光客は新幹線乗り放題の「ジャパンレールパス」を購入できるので、交通費を気にすることなく高崎・東京間を新幹線で往復できる。新幹線直結の高崎のホテルに宿泊すれば、都内に滞在するのと同じ程度の時間距離だ。市内のホテル関係者も、高崎に海外観光客が来ることを確実視している。
 

問題は“東京五輪の後”

●ビジネス拠点性と多様な文化交流

 建設工事や東京オリンピックは、言うなれば一過性である。産業団地等に進出してきた企業の業務が軌道に乗り、日常の動きとして高崎のビジネス交流の底上げが期待される。スポーツの大会やコンベンション、コンサートは、高崎が培ってきた多様な文化交流を発展させるものであり、ビジネスの拠点性と芸術文化の拠点性により、高崎は国際的で多様な交流人口を創出することができる。
 

●市内のキャパは3千人? 伊香保が大きなプラス要素に

 高崎の宿泊者数は、一日当たりの平均宿泊者数は1,800人余で、客室平均稼働率60%〜70%(観光庁資料から)で試算すると、高崎市内の宿泊容量は一日2,500人から3,000人となる。余力として受け入れられる人数は、700人から1,000人となり、今回の国際合気道大会の規模で、高崎の宿泊能力は余裕がなくなることがわかる。
 高崎の宿泊ニーズを満たす新たなホテルの進出については可能性が高いが「大会やコンベンションでの宿泊需要には波があり、今後の推移を見ていくのではないか」、「高崎の宿泊施設は不足するかもしれないが、それは大会誘致の大きなネックにはならないかもしれない。伊香保温泉の存在は高崎にとっても大きく、有利に働くのではないか」と佐藤支店長は考えている。
 高崎市内の宿泊料金は、都内よりも割安で首都圏エリアの中でも競争力が高いことが、宿泊者増加の一因として指摘されている。高崎中心部の利便性、温泉の付加価値、リーズナブルな料金などを大きな強みとして生かし、ターゲット層に届く情報発信が重要となる。
 

●腰の強い拠点都市に

 東京オリンピックをきっかけにした観光振興を狙っているライバル都市は非常に多いと考えられ、海外観光客の獲得競争は白熱するだろう。
東京オリンピックによる観光振興、経済効果が期待される一方、オリンピック後の反動不況を心配する声も既にある。
 東京オリンピックは通過点として考え、高崎は腰の強いビジネス都市、芸術文化都市として広域的な中枢機能を果たしていく必要がある。
 

●50万都市の機能で4千万人の交流人口を創出

 高崎市が今年3月に発表した「緊急創生プラン」では、政令市に匹敵する50万都市クラスの都市機能を実現するとともに、交流人口も年間2,500万人から4,000万人に増加するものと見込んでいる。こうした戦略に合わせ、宿泊施設も重要な都市機能として誘導していけるよう視野に入れている。
 

●群馬の切り札は「古墳」

 東京から新幹線で50分の利便性は、日帰りができるということだ。今回取材したホテル関係者からは「どうしたら高崎でお客様の足を止めさせることができるか」という声が強かった。大きなイベント以外では、SL、映画の撮影場所探索、中山道歩きなどを目当てに、来訪するなど観光ニーズは細分化しているようだ。富岡製糸場については、観光客はある、全く途絶えたと意見が二分した。そうした中で、多くのホテル関係者が提案した群馬、高崎の魅力が「古墳」であった。群馬の古墳は基数、規模とも国内屈指であり、高崎にも第一級の古墳が多数ある。東京に無い群馬独自の観光商品として注目できるそうだ。
 

高崎の宿泊事情

●ホテルメトロポリタン高崎

宿泊支配人・田中徹さん

ホテルメトロポリタン高崎宿泊支配人・田中徹さん

 平日のお客様のほとんどは県外で東京方面が中心。ビジネスのお客様が7割から8割を占め、一泊が多い。今後、高崎アリーナや高崎文化芸術センターなどでのイベントは週末に開催されることも多くなるので、金曜日から日曜日の宿泊需要が取り込めるのではないかと考えている。
 春のポーランド男子バレーボールチーム、9月の国際女子ソフトボール大会ではアメリカとオーストラリアの選手団が宿泊し、国際合気道大会の宿泊にも利用された。スタッフは語学研修を行い、タブレットにより多言語に対応している。
 海外選手の食事は、事前に料理長と打ち合わせを行った。母国料理だけでなく日本料理をの要望もあった。JRグループの力を生かし、群馬の食材を都内で発信したり、北海道新幹線開業にあわせて北海道、青森の食材を使った料理を提供している。10月からSLを体感できる「D51 498ルーム」をオープンさせている。
 

●高崎ビューホテル

宿泊支配人・池内徹也さん

高崎ビューホテル宿泊支配人・池内徹也さん

 高崎は群馬の玄関として機能しており、ビジネス需要も伸びている。高崎に泊まって群馬県内を営業されているようだ。布袋寅泰さんの野外ライブ、高崎音楽祭のゴスペラーズのコンサート、高崎まつりの花火大会では多くの宿泊者があった。榛名山ヒルクライムでは満室となっている。
 群馬の温泉はインバウンド観光がねらい目だ。体験型の観光をアピールしていく必要がある。東京オリンピックでは高崎にも外国人宿泊客が来ると考えている。交通や宿泊を自分で手配する人たちも増えているので、高崎の情報発信が重要だ。
 ホテルは都市のランドマークであり、使い勝手の優れたホテルをめざしている。高崎はビューホテルグループの中でも宴会が際立って多いのが特徴だ。行政、商工会議所、サービス業が連携し、ビジネスだけでなくレジャーを取り込み、地域が潤う仕組みづくりが必要だ。
 

●ホテルココグラン

支配人・木本貴丸さん

ホテルココグラン支配人・木本貴丸さん

 平日はビジネス利用が多く、関東圏を中心に県外からのお客様が多い。県内からのお客様も思った以上に多い。金曜の夜から土日は観光客が増える。高崎に一泊し、草津など県内の温泉に移動する旅行者もいる。県内の移動では、高崎を拠点にレンタカーを使うお客様が増えている。
 海外のお客様も増えており、英語が話せるスタッフは高崎でも必須となってきている。多言語への取り組みも積極的に進めている。またスパなどリラクゼーションにも力を入れ、最上階には露天風呂付の部屋が3室用意し、レディースルームはアメニティ等を充実させている。
 

●神戸屋旅館

高橋悟さん

神戸屋旅館高橋悟さん

 工事関係者は長期滞在が多い。新築の施設工事だけでなく、メンテナンスで定期的に宿泊する技術者もいる。中山道ウォーキング、SL乗車の家族客など、高崎駅に近いことで利用されている。
 高校生や小中学生の合宿を受け入れることも多い。一つの部屋でチームメイトが寝泊まりし、文字通り同じ釜の飯を食べる。野球の健康福祉大高崎高校、サッカーの育英高校との試合で県外チームが毎年、決まった時期に宿泊している。学生と職人さんは朝夕の2食付が旅館選びの重要なポイントだ。朝夕2食付は旅館の大きなセールスポイントで、当館は食堂も増築した。旅館は家族的な雰囲気で、畳の部屋が良いと国際合気道大会では外国人に喜ばれている。浜川運動公園も拡張され、ソフトボールも増々盛んになるだろう。
 高崎市が施設を建設することで人が集まり、周りのまちも潤う。高崎は色々な要素があり、来た人を逃さないよう業界で話し合う必要がある。高崎が好きだという旅行関係者もいる。
 

●ビジネスホテル 寿々屋

田島圭次郎さん

ビジネスホテル 寿々屋田島圭次郎さん

 ビジネス客は県外が多いが、県内客も3割から4割程度ある。建設作業のために宿泊する人が増え、一週間単位で3〜4人のグループが多い。ビジネスマンは一人での宿泊が圧倒的に多い。会合で集まるのも高崎は便利だ。前橋市内で大会が行われる場合も、県外から参加する人は高崎で宿泊するケースも多いようだ。
 冬季国体のアイスホッケーや軟式野球大会では、一つの宿泊施設では間に合わず、関係団体や幹事ホテルが市内の宿泊施設に選手を振り分けを行っている。市内強豪校の野球部とソフトボール部の試合合宿で高校生が宿泊している。高崎アリーナにより、スポーツによる学生、高校生の宿泊ニーズが高まるだろう。群馬県内で開催される大会であれば高崎に宿泊し、バスで会場に移動すれば対応できる。
 
         ■ ■ ■
 
 高崎のまちの流動性が人の流れをつくる。高崎で展示会やイベントが増えれば、県内の需要も増加する。周辺市町村との連携や、まちなかの小売・飲食業へいかに波及させて行くかが課題となってくる。コンベンションでは、宿泊やケータリングをワンストップで受け入れる役回りも必要だ。

 
(商工たかさき・平成28年10月号)

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