101.高崎新風土記「私の心の風景」

おらいでんさま

吉永哲郎

 倉賀野駅ホームから東の方角に、ピサの斜塔ならぬ市の第七水源地のコンクリートの塔が見えます。その塔のある東中里町に「火雷若御子<からいわかみこ>神社」が鎮座しています。この神社を土地の人は「おらいでんさま」と親しく呼んでいます。
 群馬は雷の多いところですので、大雷大神<オオイカズチノオオカミ>や火雷大神<ホノイカズチノオオカミ>を雷除けに神として祀った火雷・雷電神社が、県下には沢山あり、明治11年の「神社明細帳」によれば、354社の雷電神社があったことが記されています。生活上いかに雷除けが必要であったかが思われます。
 万葉集に「伊香保嶺に雷<かみ>な鳴りそね我が上<へ>には故はなけども児<こ>らによりてそ」(雷よ、そんなに鳴らないでおくれ。私には何のこともないが、怖がる愛しい人のために、お願いだから)と雷を詠んだ東歌があります。これは野の恋の一コマですが、同時に雷除けの呪文の意味を含んでいるといわれています。
 俗信に「くわばらくわばら遠くのくわばら」「臍をおさえろ」などありますが、東歌が万葉人の呪文と思うと、随分風流だなと感じます。火雷若御子神社の境内に荒れた御沓堂という小さな堂があります。その内に奉納された小さな馬のわらじがあります。農耕馬への雷除けの名残りです。今の人が忘れてしまった、人間の自然への畏れの心を思い出させます。

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