橋の風景から26
―牛臥大橋―
吉永哲郎
上信越自動車道路の吉井ICを出て、平井城址方面への神田吉井停車場線道路を少し行きますと、直線の上り坂になり、その途中に矢田川に架かる牛臥大橋を渡ります。平成17年3月竣工の新しい橋。人に知られていないこともあってか、人影の少ない静かな空間に架かる橋です。橋上からの景観は、橋名になっている「牛臥山」が美しく見えます。眼下に流れる矢田川は野川ですので、草に覆われて姿を見ることはめったにありませんが、川の流れに沿って、幅のある曲線の叢が続いていることによって、その面影を感じます。この矢田川の清流の恩恵を受けながら、牛臥山麓の多比良の人たちは万葉以前から生活を営んできたと、想像されます。それを裏付けるのが多胡に関する万葉人の歌が残っていることや、古代遺跡が多い地区であることからも思われます。
橋上から牛臥山を眺めていますと、吉田善吉の名が浮かんできます。吉井藩士で幕末戊辰戦争の最中、三国峠大般若塚での会津藩と官軍との合戦で戦死。27歳でした。多比良出身、先の三国峠合戦時、吉井藩軍の先頭に立ち進路を切開いて交戦中、敵弾に胸板を貫かれて、亡くなりました。私は彼の名を知ったのは、折口信夫の高弟歴史学者藤井貞文先生から、「復古記」「東山道戦記」を読めといわれたからです。牛臥山を見ると、この青年の無念の人生を、思います。何か現代に通じるものを…