志尾 睦子の映画づくし 11

BLUE GIANT

志尾 睦子

2023年 
監督:立川 譲 
声の出演:山田裕貴/間宮祥太朗/岡山天音

雨の日も風の日も雪の日も

 今年も冬将軍がやって来ました。高崎の平野部は雪が舞う中での日常生活というのはあまりありませんから、子どもの頃は雪が降るだけでなんだか嬉しくてはしゃいでいたものですが、大人になるとそうもいきません。明日は雪、と聞くとちょっと気構えて、日常生活が滞りなく進むようにと思う一方で、明日やらなくても済むことは他の日に振り替えようという気持ちが働きます。毎日のルーティンを雪の中でするというのは、負荷もかかるし気持ちがまず強くないとできないと知っているからです。でも、とある映画を見てから、私はその姿勢に襟を正すことになりました。

 仙台・広瀬川の河川敷。雪の降りしきる中でテナーサックスを一心に練習する高校生・宮本大。雪に音が吸収されて聞こえない。そんな中でも彼は「世界一のジャズプレイヤーになる」と呟きながら練習する手を止めません。その始まりは数年前、聴きに行ったジャズに心を奪われて、初めて楽器を手にした大はそれからただひたすら吹き続けています。とにかく毎日。雨の日も風の日も雪の日も、1日も休むことなく吹き続ける。冒頭数分の描写で、なんとも純心で熱い思いがストレートに伝わりもう引き込まれていました。

 高校を卒業し、ジャズプレイヤーになるため東京に出てきた大は、とにかく頭の中はジャズ一色。東京にきて一番にやることといえば、河川敷のいつもの練習。住む家も決めず、東京の大学に進学した玉田の家に転がり込んでジャズマンへの道へ突き進みます。サックスの練習だけは欠かさず、日雇いのバイトをしながら東京のジャス界へと足掛かりをつけようと奔走します。ある時ライブハウスで、大は凄腕のピアニストに出会い、あまりの素晴らしさに、思わず一緒にやろうと声を掛けました。4歳からピアノを続けているという同い年の沢辺雪祈と、大の勢いに感化されてドラムを始めたばかりの玉田と3人で、彼らはバンドを組みジャズの世界にのめり込んでいきます。

 一人の青年がジャズプレイヤーになるまでを描いているのですが、ただ自分を信じて突き進む主人公と、彼に巻き込まれていく仲間、そして大人たちの「青春」が凝縮されています。限りある時間だからこそ、輝きを放つ。毎日ただひたすらに、同じことを繰り返して成長する。それが鉄壁の強さになる、と改めて感じた次第です。

 力強い画と一流の音楽に身を包まれる至極の映画時間もお約束します。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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