志尾 睦子の映画づくし 9
8人の女たち
志尾 睦子
2002年 フランス 1時間51分
監督:フランソワ・オゾン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ザベル・ユペール/エマニュエル・ベアール/ファニー・アルダン/他
人の数だけ人生がある
あっという間に2024年も終わろうとしています。歳を重ねるごとに一年の進みがどんどん早く感じるようになるのはなぜなのでしょうか。過ごしてきた時間の記憶が定かでなくなるのも、その要因の一つなのかもしれません。忙しさなのか、歳のせいなのか、いずれにしても、体には過ごした時間の事実は刻まれている、と思ってなんでもがむしゃらに頑張るしかないのかもしれません。
さて、気忙しい12月には、そのテンポに合わせながらも、壮麗で豪華な気分になってみるのがいいかもしれません。今回ご紹介するのは、今年の1月に高崎へ撮影でいらしたカトリーヌ・ドヌーヴさんをはじめ、フランスを代表する女優たちが勢揃いの名作。この競演は見ものです。
時代設定は1950年台のフランス。クリスマス・イブの朝、雪深い地にある大邸宅で殺人事件が起きます。殺されたのは一家の主人・マルセル。新入りメイドのルイーズが、朝食を届けに寝室に入ったところ、マルセルの背中にナイフが突き刺さっていたのです。この家にいるのは他に、マルセルの妻のギャビーと二人の娘、シュゾンとカトリーヌ、ギャビーのマミーと妹のオーギュスティーヌ、長年この家に仕えるメイドのシャネル。この邸宅は大雪のため、配達人も来られない状況のため、誰もここには入れないし逃げることもできない。つまり、犯人はこの7人の中にいる、というわけです。
そうして彼女たちは、犯人探しを始めます。それぞれが互いに抱いていた疑念や、嫉妬がぶつかり合い、険悪な状態に。そんな時、外に人影が! 犯人かもと思って様子を伺うと、家に入ってきたのはマルセルの妹・ピエレットでした。彼女は、自宅に「兄が殺された」という電話が入り、怖くなって慌ててヒッチハイクでここに来たというのです。ピエレットが加わり、8人になった女たちは、疑心暗鬼になりながら、ことの真相に迫っていきます。
殺人事件から物語が展開するものの、焦点はそれによって紐解かれていく8人の女たちの人生にあります。密室の中で繰り広げられる会話劇の構成はお見事です。登場人物のキャラクターが衣装の色やファッションスタイルで鮮やかに表現されていて、尚且つミュージカル仕立てでもあるので、歌い踊る女たちのショータイムも華やかで楽しめます。
人生いろいろ。そこから見えてくる「自分らしく生きること」の尊さに頷かされます。エスプリに富んだ逸品です。