ビジネスパーソンにお薦めするこの1本84

かがみの孤城

志尾 睦子

2022年 116分
監督:原恵一 
声の出演:當真あみ/北村匠海/他

去るための時間を大切に過ごすために

 「一月往ぬる二月逃げる三月去る。」先日、年明けからの3ヶ月の速さを表すというこの言葉を教えてもらいました。結論としては月日の速さを伝えているだけですが、同じ状況をさまざまな言葉で言い表すという日本語の情緒深さに素直に感激しました。3月を去ると表現したいわれはわかりませんが、「去る」をある地点から遠ざかると考えれば、次へ行くための新たな気持ちが乗ると捉えることもできます。到達してまた次へ行く、のステップです。3月が去ると4月の新年度が新しい光を持ってくる。そんな風に考えて、思い出した作品を今回はご紹介します。

 中学生の安西こころは、学校での居場所を見つけられず、家に閉じこもりがちでした。学校をお休みしていたある日、こころの部屋の鏡が突如光だします。恐る恐る手を伸ばしてみると、あれよあれよとこころは鏡の中に吸い込まれてしまいました。気が付くとそこはお城で、目の前には狼のお面を被った女の子〈オオカミさま〉がいました。お城には、こころの他に中学生が6人。互いを知らずここで初めて出会ったようでした。オオカミさまは「城に隠された鍵を見つけたら、どんな願いでも叶えてやる」と言います。その鍵は願いの部屋に入るためのもので、それが出来るのはひとりだけ。この城にいられるのは毎日朝9時から5時の間で、毎日来てもいいし、お休みをしてもいいし、何をして過ごしてもいい。そして鍵を見つけた誰かの願いが叶ったら、そこで終了で全ての記憶が消えるともいうのでした。注意点は一つ、滞在時間を破ってはいけないということでした。一人がルールを破ると全員がその罰を受け、なんとオオカミに食べられてしまうというのです。期限は1年間。来年の3月30日でこの鏡の城は閉じてしまうというものでした。

 最初は事態を飲み込めないこころでしたが、他の子たちと話をしていくと、皆がどうやら学校に行けていなかったり、居場所を見つけられないでいることがわかります。皆それぞれに自分の願いを叶えるために鍵を探すのですが、やがて城に集う皆が仲間になり、この場所が居心地の良い場所にもなっても行くのです。そして季節が巡り、3月30日が近づいてくるのですが…。

 成長途中の子どもたちの心に寄り添う物語ですが、私たち大人にも時間の尊さを伝えてきてくれます。世代をこえて明日の一歩を踏み出す力をくれるはず。年度末にこそ観ていただきたい一作です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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