ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 78

アメリ

志尾 睦子

2001年 フランス 121分 
監督:ジャン=ピエール・ジュネ 
出演:オドレイ・トトゥ/マチュー・カソビッツ

秋風に誘われて自由になる

 夏祭りが終わると同時に秋風が吹き、すっかり雲の形も変わってきました。体力を奪われる気候のもとでの頑張りは、少し過ごしやすくなった今頃に、疲れとなって現れてくるものです。疲れは見過ごさず、頑張った自分を振り返ってみるのもいいタイミングかもしれません。自分を振り返るには色々と方法があるはずですが、常日頃忙しくしていると意識がそこにいかないものです。だからこそ、お手本が必要です。秋風に誘われて自由になる気分を味わうのにおすすめの一作を今回はご紹介します。

 始まりは、1973年の9月3日。さまざまな人たちの人生が紡がれるある瞬間、受精卵となったアメリ・プーランがこの物語の主人公です。軍医だった父は何処か冷淡で、元教師だった母は神経質。そんな両親の元に育ったアメリは、学校にもいかず、周囲の人とあまり交わらない生活を長く送ることになりました。ある時、母が事故死し、父親と二人きりに。小さなアメリは心騒がれることも、心を閉ざされるようなこともたくさん起こるなかで成長します。そして大人になった彼女は自立し、1997年8月家を出て、モンマルトルにあるカフェ・ドゥ・ムーランで働き始めました。

 アメリの人生を大きく動かすことになったのが、一人暮らしを始めたアパルトマンで目にしたダイアナ妃事故死のニュース。衝撃を受けた彼女は化粧瓶の蓋を落としたことで、部屋の一室に隠されていた過去の住人の宝箱を見つけます。小さな男の子が隠したであろうその宝箱をアメリは持ち主に届けようと考えます。彼女はそこから、少年の手がかりを掴むためアパルトマンの住人や周囲の人たちとかかわるようになります。過去の思いに生きる人、家に引き篭もって絵を描き続ける人、心優しい隣人や、身勝手な大人たちを通して、彼女はついにかつての少年・ブルトドーを突き止め、宝箱を届けることに成功します。自分が誰かを少しだけ幸せにすることができる。その喜びを知ったアメリの人生はまた大きく動くのでした。

 人と関わることで自分も知っていくアメリは、人生初めての恋にも堕ちます。人の証明写真を収集する青年ニノ・カンカンポワです。人のことも自分のこともカテゴライズせず、そのまま受け止める彼女の存在は、自由に生きる大切さを教えてくれます。ブラックユーモアと、チャーミングな人たちと、素敵な音楽と、おしゃれな美術品や衣装も見どころで、癒し効果も抜群な一作です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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