石碑之路散歩風景25

吉永哲郎

今回は前回の万葉歌を鑑賞します。
「多胡の嶺に寄せ綱延(は)へて寄すれどもあにくやしづしその顔よきに」(碑はすべてかな文字で書かれています)。巻14に載る東歌です。
 難解な歌で、まず「あにくやしづし」に関しては、多くの注釈書では不詳としていますが、万葉学者は「あ憎や沈石(しずし)」(ちぇっ、重石め、びくともしない)と訳したり、また「豈来や静し」(どうして来ようか、来やしない)と二つの考え方を示しています。


 私は「静し」という形容詞は存在しないとする考え方にそって「多胡の嶺に網を引き渡して引き寄せるように、懸命に引き寄せても、いまいましいったらありゃしない、重石め、びくともしない。というように可愛いあの女(こ)は、おれに見向きもしない」と訳します。


この歌は、歌垣(春先に行われた農耕の予祝儀礼が、時を重ね、歌を仲立ちにした男女の求愛の場となったといわれ、東国では「かがい」と言い、筑波山でのことが『常陸風土記』に見える)の時に、慣れ親しんでいる山を女性に喩え歌い掛け、女性が見向きもしないことを、山から多胡石を掘り出す苦労の体験を重ね、表現したと思われます。朝日岳から八束山にかけて分布する多胡石は、この地に点在する古墳に用いられる砂岩です。


 馬庭駅は県立吉井高校の登下校時は高校生の声が響き、石坂洋二郎の小説「青い山脈」の舞台を思わせる、ローカル線ならではの情緒を感じます。馬庭念流の剣士の姿も時に見かけます。

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