石碑之路散歩風景14

吉永哲郎

 冬は寒い日が続き、二月の声を聞くと、そろそろ梅が咲き始め、春の兆しを感じるものですが、なかなか今年の春はその姿を見せません。それでも立春の文字を暦で見かけますと、そぞろ白い梅や紅梅などを求めて、春を探しに歩きたくなります。
 私はまず石碑の路の途中、根小屋城址への道にある山村暮鳥の「おいそっと そっと しづかに 梅の匂ひだ」の小さな歌碑を訪れました。この短い詩句に含まれる春への思いを、口にしながら、道を返し万葉の「石碑の路」へもどりました。


 さて今日の万葉の歌は、前回の歌碑から階段を登ったところにあります。千代倉桜舟の書で「かみつけぬかほやがぬまのいはゐづらひかばぬれつゝあをなたえそね」と刻されています。

「かほやがぬま」の所在はどこか不明ですが、自然にできた沼、灌漑用の溜池などで県内の沼という地名をさがすと、赤城の大沼・小沼、東毛の湿地帯に沢山ある沼で、最も大きい「多々良沼」などがあります。どこと特定することはできませんが、歌が日常生活に直結した雰囲気をもっていますので、私は身近にある稲作や生活用水を溜めておく、灌漑用の池だと想像します。その大事な沼に生えている「いわい鬘(かずら)=ジュンサイ」を弾き抜くと、「ずるずると寄ってくるように、私との仲を絶やさないでおくれよ。」という一首の意味からも、この地の東人が口にしていた歌だと思います。

 春を探しに歩いていたら、思わぬ万葉人におあいし、春を感じました。

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