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コーヒーをめぐる冒険

志尾 睦子

2012年 85分 ドイツ
監督:ヤン・オーレ・ゲルスター
出演:マルク・ホーゼマン 他

不運も気付けば幸運に変わる

 一年の計は元旦にあり、と思いながら今年の人生設計を立て切らぬままひと月があっという間に経ってしまいました。でも、大丈夫。二十四節気の節入りでは、立春が一年の始まりです。一年の運気は節分を境にして変わるわけなので、お正月休みを挽回しようとあくせくしていた時間こそが去年までの自分だと言い聞かせて、立春に人生の深呼吸をする、様にしています。新しい空気を身体中に行き渡らせることを意識して呼吸するだけで頭のもやが晴れることがあるように、人生の過ごし方もそんなふうに意識していくと良いのかもしれません。新しい運気を味方につけて、ゆっくりと一歩を踏み出したい今日このごろです。

 運気が変わる、人生が変わるというタイミングは、なかなかやって来ないと思いがちですが、実はそうでもなく、人生の節目はいくらでも訪れていて、それに気づける自分でいるのか、というのが大事なことなのだと思います。今回はそんな視点で楽しめる一作をご紹介します。

 舞台はベルリンです。青年ニコの一日が始まるところからこの物語は動き出します。ニコはいわゆるニートで、2年も前に大学を辞めたけれど親にそれを言い出せぬまま、漫然と日々を過ごしていました。人生を考えているというのが自分への言い訳で、さして大きな焦燥感を抱えるでもなく生きています。この日の朝、ニコはいつものように彼女の家で目覚めますが、ちょっとしたことでモーニングコーヒーを飲み損ねてしまいます。そうして始まった1日は、どうもうまくいかないことが続いて行きます。免許は停止になるし、バスには乗り遅れるし、アパートの住人には絡まれるし、ATMにカードは飲み込まれてしまうし、飲みはぐれたコーヒーをカフェで飲もうと思うのにそれさえ出来ない。気分転換に親友と出かけてみるけれども、なんだか全てがうまくいかない感じ。やることが裏目に出るような”ツイてない”1日を過ごすニコですが、沢山の人たちと出会い、小さな会話を繰り返し、時間を重ねるからこそ出来事が積み上がっていくわけです。その出会いが、ニコの人生の一分一秒を作る素材になっている、とわかってくるとこの物語が俄然豊かで面白いものに見えてくるのです。ツイてない1日が、新しい1日に変わるのは、本当に小さな気づきなのだとわかってきます。

 ゆっくりとハンドドリップでコーヒーを淹れて飲みたくなる。そんなブレイクをくれる一作でした。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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