ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.63
ダージリン急行
志尾 睦子
アメリカ 91分
監督:ウェス・アンダーソン
出演:オーウェン・ウィルソン/エイドリアン・ブロディ/ジェイソン・シュワルツマン
時には人生を変える旅が必要
急激な気候変動で大粒の雹が市内を覆った初夏の始まり。雹が夏の季語とは言え、大きすぎる粒にはやはり驚きました。この粒の大きさが長きにわたる生活が引き起こした温暖化の影響と思うと、考えさせられますね。この先の未来のために、今を過ごすことの大事さを痛感します。小さなきっかけは見過ごしてしまうことも多いものですが、その気づきをひとまず行動に移してみると、つながる未来が大きく開けることもあるかもしれない。常々そんなふうに意識できたら、素敵だなと思います。
さて、今回ご紹介するのは小さなきっかけを、ひとまず旅という行動に移してみた3兄弟の物語です。旅の地はインド。旅行鞄を抱えたピーター・ホイットマンが、列車に飛び乗るところからこの物語は幕を開けます。乗り込んだのは、長距離寝台列車ダージリン急行。旅を企画したのはホイットマン家の長男・フランシスです。一年ほど前に彼らの父親が亡くなった事が決定打となり、兄弟は絶縁状態にありました。そんな状況下、フランシスはバイク事故で瀕死の重傷を負います。九死に一生を得たフランシスは、家族の絆をもう一度取り戻そうと決心し、次男・ピーター、三男・ジャックを聖地巡礼の旅に誘ったのでした。そこには行方知れずになっている母親探しという目的もありました。
ピーターは臨月を迎える妻をおいての旅となり、気もそぞろ。ジャックは彼女と別れたばかりで旅気分になれるはずもなく、こっそり途中下車しようと目論んでいます。フランシスの家族に対する切実な思いとは裏腹に、弟たちは全く気乗りしないままダージリン急行に乗り込んでいます。そんなですから、仲直りどころか小さな衝突が繰り返され、周囲を巻き込んでのトラブルにまで発展してしまいます。列車の中でも、途中下車して訪れる神聖な寺院でも、彼らの会話は噛み合わず、心が通い合うこともままなりません。それでも、人生を変える旅が必要だと信じるフランシスの固い決意が、旅を押し進めていきます。
珍道中は思わぬ展開の連続なのですが、たっぷりとある時間の中で彼らはこれまでの人生を語り、互いの話を聞き、共に過ごさなかった過去を共有していきます。そして、見知らぬ土地で見知らぬ人と出会いながら、共有の思い出を作っていく。そのゆるい共感は確実に過去から未来を作る道標になっていくのでした。
誰の人生にも運命を変える旅が待っている、そんなふうに思える作品でした。
- [次回:グエムル 漢江の怪物]
- [前回:すばらしき世界]