ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.61

ひまわり

志尾 睦子

1970年 イタリア=フランス=ソ連=アメリカ
監督:ヴィットリオ・デ・シーカ 
出演:マルチェロ・マストロヤンニ/
ソフィア・ローレン

祈りと願いを込めて

 今年は花曇り、花冷えの春だなと感じています。気候だけでなく、日々流れてくるニュースが心も冷えさせてしまいそうです。心が冷えてくると、明るい道は探せなくなるもの。春の装いに身も心も預け、その生命力を感じる事は、心を豊かに温かく柔らかくする事にもつながるはずです。世界の事に心を寄せながら、自分たちのできることをしっかりと勤め上げていきたいものです。

 今回は、不朽の名作を改めてご紹介いたします。一面のひまわり畑と心に強く残る名曲で知られた『ひまわり』は、ウクライナへ思いを寄せる一作でもあります。イタリアの名優、マルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレンが夫婦を演じた愛の物語から、私たちは様々なことを受け取ることが出来ます。

 陽気で快活なイタリア男のアントニオは、ナポリの海辺で美しいジョバンニと出逢います。一瞬にして惹かれあい、恋に落ちた二人は夫婦になりました。時は、第二次世界大戦下。温かな時間が二人に流れる一方で、戦争は激しさを増し、アントニオが戦地に送られる日が近づいてきました。夫と離れたくないジョバンニは考えられること全てをしますが、引き止めることは不可能で、アントニオはソ連戦線に送られてしまいます。

 愛する人を戦地へ送り出す自分を悔い、どうにもならない世の中を憂い、失意の底に沈むジョバンニは、「戦争が終わったら、夫に会える」と自分に言い聞かせ、どうにか息をしている、そんな風に見えました。やがて終戦を迎え、かつて彼を送り出した駅で夫の帰りを待ち続けるジョバンニですが、一向に愛する人の影さえ見る事はできません。

 小さな情報だけを必死に繋ぎ合わせ、ジョバンニはソ連へと夫を探しに出かけます。有名なあのひまわり畑のシーンは、ウクライナで撮影されています。当時、その地の一部はソ連だったそうですが、冷戦時代に撮影されたことを思うと、その意味の大きさと尊さを改めて受け止めることができます。ウクライナの国花であるひまわりが伝えてくることは、今、とてつもなく大きいと実感します。ひまわり畑で交わされる会話に込められた戦争の惨さも、鋭い痛みとなって私たちの心に突き刺さります。

 奪われた数々の命と、かろうじて生きながらえた命。双方をヴィットリオ・デ・シーカ監督は、青い空と、黄色いひまわり、そして長く黒い機関車の中に描き切ります。心を震わす映画体験が世界を救う一歩になると願ってやみません。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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