ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.56

劇場版ファイナルファンタジー XIV光のお父さん

志尾 睦子

2019年 監督:野口照雄 
出演:坂口健太郎/吉田鋼太郎/他


戦い方も、向き合い方も、十人十色

 秋も深まり、年末に向けてさらに忙しさがます時期となりました。ビジネスパーソンに限らず、何かに追われてしまうと、ついつい体も心も酷使してしまい、自分以外の人との豊かな時間を忘れてしまいがちになりますね。休息も、気持ちの切り替えも最初こそ難しい気がしますが、無理矢理にでもすることが大事な時もあります。自分に対してそれをすることは難しいものですが、人に対してその目を向けようと思うとできる気がしてきませんか。そしてそれは結果的に自分にも返ってくるのかもしれません。

 今回は、忙しすぎた人たちが、新たな戦いをすることで安らぎを得た、というそんなささやかで大きな冒険譚をご紹介します。

 実家暮らしのアキオは広告代理店に勤める働き盛りのサラリーマン。のんびりやの母と快活な妹との生活は可もなく不可もない感じで、住み慣れた空間と仕事場を行き来するだけの多忙な毎日を過ごしています。父親・暁は仕事一辺倒で、出張か、単身赴任かで家にほとんどいなかった存在です。そんな父が、ある日突然仕事を辞め家に戻ってきました。なぜ辞めたのかも語らず、もぬけの殻のようにただ家にいる父。母も妹も、そんな父を遠巻きに静観していることしかできません。社会人になったアキオには、父親が抱える得体の知れない大きな消失感がなんとなくわかる。でも、長い年月交流がなかっただけにどうしてあげたらいいのかがわからない。どうにか父の気持ちを知ることができないだろうか。活力に満ちた父親に、どうやったら戻ってもらえるのだろうか。考えあぐねて思いついたのが、かつて一緒にやった「ファイナルファンタジーⅢ」の思い出でした。

 アキオは退職祝いに、暇つぶしにもなるからと、暁へファイナルファンタジーの最新版ゲームソフトをプレゼントします。Ⅲから随分と進化したゲームを手解きすると暁は早速自分のキャラクター・光の戦士にインディ・ジョーンズと名前をつけます。少しずつオンラインゲームのシステムにもなれてきた暁は、実際には見知らぬ人とゲームの中で仲間になり、彼らと冒険を重ねていくようになります。そしてアキオは、自分であることを隠したまま父・インディと仲間になりゲームの世界で父親の本音に向き合う術を見つけていくのでした。

 正面からぶつかるだけでは見えてこないことがある。ゲームに興じる父子の姿にそんなことを教えられた気がしました。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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