ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.44

真珠の耳飾りの少女

志尾 睦子

2003年 イギリス 100分
監督:ピーター・ウェーバー
出演:コリン・ファース/スカーレット・ヨハンソン/他

一枚の絵画をめぐる愛の物語

  銀杏並木の美しさが増すごとに、寒さが募ってくる今日この頃。高崎の街中では現代アートがお目見えし、芸術の秋の深まりを知らせてくれています。芸術は教養をもたらし、心に栄養と癒しを与えてくれます。芸術は人が生み出す美であり叡智だと私は思いますが、その大きな原動力は、人間力と愛ではないでしょうか。人間力と愛には様々な形がありますが、それを素直に差し出し受け入れることで優れた芸術が生まれてくる気がします。そうした芸術作品は感性を刺激します。感性の刺激は、仕事における新しい発想や応用力にもつながります。芸術の秋だからこそ、そんなことを今一度感じていただける作品をご紹介します。

 本作は、オランダの天才画家、ヨハネス・フェルメールの代表作「真珠の耳飾りの少女」に着想を得て書かれた歴史小説を映画化したものです。フィクションなので、名画が生まれた背景の真偽は謎ですが、発想の豊さに身を委ねるのもまた面白いものです。

 1665年のオランダ。画家として成功したフェルメールは、創作に追われる生活を送っていました。そこへ使用人として働きに来た少女・グリート。タイル絵師だった父親が失明して働けなくなり、家計を支えるべくこの家へやってきました。仕事は丁寧であらゆることに敏感な彼女はすぐに仕事を覚え、使用人仲間からも信頼を得ていきます。夫人にアトリエの掃除を言いつけられると、ものを動かさないよう細心の注意を払い、窓を拭いていいのかさえ、指示を仰ぐような芸術的感覚も備えていました。アトリエの光がわずかな変化で変わることに気を配るグリートの仕事ぶりは、フェルメールの創作意欲を大いに刺激し、鼓舞するものでした。グリートに芸術的才能があると見抜いたフェルメールは、遠近法や絵具の調合などを教えるようになります。しかし夫人は、グリートの良さを認めるどころか、嫉妬心と猜疑心からそんな彼女に辛く当たるようになります。

 やがてフェルメールは、グリートをモデルに新しい絵に着手します。二人きりでアトリエに篭る日々は夫人の怒りを買い、噂の餌食になっていきます。グリートには同じ年頃のボーイフレンドもいるのですが、彼女がフェルメールの狂気にも満ちた芸術性に惹かれているのも事実でした。

 一枚の絵を巡る人生模様が濃密に描かれますが、バロック時代の芸術を最大限に活かした映画作りも見事です。陰影や色合い、構図にも引き込まれる一作です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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