私のブックレビュー4
『ちいさなちいさな王様』
志尾睦子
アクセル・ハッケ著
ミヒャエル・ゾーヴァ絵
講談社
大きくなると小さくなるのはなあに?
十数年前、ふと立ち寄った本屋さんで一目惚れしたのがこの本でした。テーブルに置かれた新聞の上にちょこんと立つ、王冠に赤いガウンをまとったぷっくりとした王様。落ち着いた色味とそのやわらかな画風から目が離せず、加えて「いま、大人が読むべき絵本―柳田邦男氏推薦」の帯文に大いなる刺激を受け、そのまま即購入してしまいました。作者は南ドイツ新聞の政治部記者をしながら執筆をしているアクセル・ハッケ。印象的な表紙及び中の挿絵はミヒャエル・ゾーヴァで、絵本や児童書の挿絵を多く手がけるイラストレーターで、映画『アメリ』の劇中で使われた絵や美術品を手がけた事でも知られています。
こんな書き出しから物語は始まります。
しばらく前から、ほんの気まぐれに、あの小さな王様が僕の家にやってくるようになった。
王様は、名前を十二月王二世といって、僕の人差し指くらいの大きさしかないくせに、ひどく太っていた。白いテンの皮で縁取りされた、分厚い深紅のビロードのマントをいつも着ているのだが、おなかのところではちきれそうだった。
なぜ、ある日突然王様が僕の家にやって来たのでしょうか。それもきまぐれに。
サラリーマンの「僕」と小さな「王様」は、互いの生きている世界の事を伝え合い、相違点について考えを巡らせていきます。例えば「僕」の世界では、小さな赤ちゃんの体が成長し、大人になって行く訳ですが、王様はそれを非論理的だと言います。王様のところでは、生まれた時に今の僕くらいの大きさがあり、歳を重ねて行く毎に小さくなり、やがて消えて行くのだそうです。どうせ消えるなら一番最初に大きくて次第に小さく消えて行くのが理論的という言い分もわかるような気がします。
また、ある日僕は王様を連れ、僕にとっては退屈ないつもの通勤路を歩きます。すると今まで見えなかった事がいくつも目に入る事に気がつきます。王様は、存在しないものが存在するということを、さらりと僕に教えてくれたりします。
「僕」と「王様」のやり取りは、哲学的とも言えます。それが小難しくないのが面白いのです。想像力の使い方を知らぬ間にレクチャーされ、温もりのある挿絵で更に豊かな世界を自分の頭の中に描き出せる。まさしく大人のための絵本でした。王様のところで子どもをどのように産むのかには、いたく感銘を受けました。物事の捉え方や見え方が少し広くなり、短時間で頭をリフレッシュ出来た素敵な一作です。
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