ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.34

ミッドナイト・イン・パリ

志尾 睦子

2011 アメリカ 監督:ウディ・アレン
出演:オーウェン・ウィルソン/
マリオン・コティヤール/他


雨に濡れて歩くのもまた人生

 新しい年が始まりました。令和二年となり、平成や昭和が懐かしく語られる新しい時代の始まりともなりました。私もすっかり、「あの時はいい時代だった」と思う年齢になってしまいましたが、現代の良さもきちんと感じられるように生きたいものだと、改めて思っています。

 さて、そんな風に感じた一つのきっかけになった作品を今回はご紹介します。

 主人公はハリウッドで脚本家として活躍するジルです。彼は脚本家として成功を収めていますが実は小説家志望。小説を書き進めてはいるのですが、なかなか認めてもらえず、スランプに陥っています。そんな折、婚約者・イネズの父親がパリで事業を始めることになります。実はジルにとってパリは憧れの地。特に1900年代初頭のパリをこよなく愛し信奉するジルは、イネズの両親と会うという絶好の理由を得て、彼女とパリへ婚前旅行にやってきました。

 映画の冒頭、ジルの目線で切り取られたパリの街並みが続きます。人々の生活やその時の空気感まで伝わる様々な顔のパリ。ジルはここで暮らしたいと心底願い、パリでの創作活動に意欲的になるのですが、イネズの方は私はアメリカでしか暮らせない、とけんもほろろ。観光地としてほんのひと時を謳歌したいイネズは、ジルの思いを受け止めることもなく、二人は旅先ですれ違いを重ねていきます。

 イネズと別行動となったジルは、賑やかな街中から離れたある教会の前の通りで深夜の鐘を聴きました。すると車がやって来てジルの前で停まったかと思うと、中にいた乗客がジルに乗れと誘うのです。そうして彼は、とあるパーティに連れて行かれるのですが、なんとそこはジルが憧れたパリの黄金時代1920年代だったのです。タイムスリップしたジルはそこで尊敬する作家や芸術家たちに出会います。フィッツ・ジェラルド夫妻、ジャン・コクトー、コール・ポーターや、ヘミングウェイ、そしてピカソの愛人だったアドリアナなど。真夜中の時間だけその時代に行くことができるとわかったジルは現在と過去を行き来します。そうする中で、彼は自らの生き方を振り返り、あることに気づいていきます。

 いつの時代でも、人はその時間を悩み、過去や未来に憧れる。その事をしっかりと描いた作品です。だからこそ、今を愛するために何を愛すべきなのか、そんな声が聞こえてくるようでした。

 名匠ウッディ・アレン監督のエスプリとファッションセンス、美しく饒舌な美術も見どころです。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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