群響コンサートレビュー (1)
(2019年12月6日)
第553回定期演奏会(2019年11月)
群馬交響楽団の元評議員の堤志行さんの発案で、30年余の長きにわたって群響定期会員を続けている高崎市民のAさん、Tさんと群響定期演奏会の後に感想を語り合ってもらった。今後も群響定期演奏会に合わせて掲載する予定。
堤:以前から、群馬交響楽団の定期演奏会を聴いた後に、群響ファンの人たちと演奏会の感想を言いたい放題におしゃべりしたいと思っていたんです。高崎芸術劇場が9月20日に開館し、群馬交響楽団の拠点がこの新しいホールに移るという歴史的な節目に我々は立ち会うことができた。
群響の演奏やホールについて語り合うことを始めるには、ちょうどいいタイミングと思って集まってもらいました。
群響が高崎芸術劇場で行った演奏会は、こけら落としの「第九」、小林研一郎さんが指揮をした高崎音楽祭「コバケンの巨人」、10月の定期演奏会、そして11月の定期演奏会の4回ですが、いかがでしたか。
11月定演「武満徹/鳥は星形の庭に降りる」
A:まず今日の指揮者の井上道義さんが、終演後、満員の観衆を前に、ホールは生き物で育ててほしいとお話しになったことはとても良かった。開館記念の第九、10月の定演、11月の定演と回を重ねて音がなじんできたような気がします。
今日の1曲目、「武満徹/鳥は星形の庭に降りる」には、3秒から5秒くらいの全休符が長く続くところが4か所くらいあるんだけれど、どうも短縮されたみたい。あの沈黙がいいんだけどな。
T:武満の曲はピアニッシモを楽しむことができるんだけど、そういう楽しみを観客がまだ知らないんじゃないかな。観客のレベルの問題かな。
A:演奏が止まると、観客がフライングで拍手してしまうことがあるから、曲がだいなしになってしまう。演奏する側は、それが怖いんでしょう。
堤:群響の観客は、曲が終わって拍手が早い。余韻がないと楽団員からも指摘されている。今日も早かったですね。
A:高崎芸術劇場になって、やっと余韻、残響が楽しめると思って期待していましたから余計に残念です。
T:余韻も音楽の醍醐味ですよね。
A:演奏曲について観客に教えるのも必要かもしれません。曲間に無音が入るとわかっていれば拍手しないでしょう。10月の「ロミオとジュリエット」は組曲で、「ラザレフ版」と書いてありましたが、組曲によって曲や曲順が違っているので演奏前に知りたかったです。
11月定演「ブルックナー/交響曲第7番」
堤:ラザレフが指揮した10月の定演、井上さんの11月の定演、選曲がとても良かった。
A:すごく楽しみにしていました。
T:ブルックナーは音の感じが音楽センターとは違って、今まで聞いてきた群響のブルックナーの中で一番良かった。圧倒的に良かった。今まで聞こえなかった音が聞こえてくる。音楽センターでは楽器の生音しか聞こえてこなくて、言うなれば「やせた音」だったけれど、高崎芸術劇場は「響き」として聞こえてくる。
A:音楽センターではこの音は出ませんでしたね。
T:期待以上の音でした。
堤:高崎芸術劇場はどの席で聴くのが一番いいか、研究をして楽しんでいます。今日は最も響かないと言われる席に座りましたが、音楽センターのS席よりも良かった。2階席がいいですよ。良く見えるし、響きもすばらしい。
T:天井から回ってくる音と、床から上がってくる音があって、そのバランスがいいのだと思う。どの席が一番いいかは、群響事務局は言いたくないでしょうね。ホールの響きが出来上がってきたら、席割を見直すのもいいかもしれない。
堤:残念なこともあって、響きが良くなったことと群響の演奏力は別問題で、高崎芸術劇場に会場が移ったからと言って、急に演奏力が向上するということではないから。
T:響きがいいから、今まで聞こえてこなかったアラも聞こえてくる。
堤:いいブルックナーだったけれど、今日満足できたのはフルートだけだったかな。
A:残念だけど、群響の弦は厚みのある小さな音が出せない。
堤:弦の人数が足りないのが原因かな。
T:だから余計に管が目立って聞こえてくる。
A:管とバランスとろうとするから演奏や音色も変わって、弦の「絹のような音」が針金みたいな音になってしまう。高崎芸術劇場に合うオーケストラにするためには第一バイオリンを今の14人から16人に増やすべきだと思う。
堤:おいしいステーキが食べられるようになったが、でもステーキが薄くて厚さが足りないっていうことかな。
こけら落とし「第九」
堤:こけら落としの第九は観覧希望者も多くて急きょ2回公演にしたのだが、こういう対応をできたことは称賛に価すると思います。オーケストラも合唱団も高崎の自前だからできたし、高崎市も英断だった。
T:確か公募枠に対して17倍の応募者でした。
堤:来場者からも大好評で、少なくても私のところには絶賛の声が聞こえていました。でも、演奏のバラバラ感は否めなかった。
A:テノールは聞こえなかったな。
T:その意見は多かったですね。バリトンは大きかったでしょうか。故郷高崎での演奏に気負いもあったかもしれませんね。
堤:テノールは第九の演奏は初めてだったそうですね。
A:第九を歌ったことがない声楽家はいますよね。
T:第九が頻繁に演奏されるのは日本だけですから、海外の声楽家で第九を歌ったことがないという話は、それほど珍しくないですよ。
堤:こけら落としの翌日に行われたソロコンサートは、とてもすばらしかったので、実力に間違いはなかったと思う。客席に観客がいないゲネプロ(リハーサル)と満席になった本番の公演ではホールの響きが違う。
T:演奏しながらパートの音量を調整していますよね。
「モーツァルト/ピアノ協奏曲」
T:高崎音楽祭のモーツァルト/ピアノ協奏曲は、高崎芸術劇場のピアノのお披露目でしたから、とても期待していたのですが。
堤:私はゲネプロしか聞いていませんが、金子さんのピアノは抑え気味だったような印象です。
T:モーツァルトとしては、どうだったのかなあ。
堤:求めていたモーツァルトとは違う。
A:私も同感です。ピアノは「すみだトリフォニーホール」は響きすぎる。上田市のサントミューゼはいい音でした。
T:上田はノーマルでいい音ですよね。Aさんは群響を追いかけてどこまでも。市外、県外含めて全公演を聞いてますよね。
高崎芸術劇場にふさわしい群響に
A:今まで聞いた中では沼尻さんのマーラー9番が良かった。桐生市シルクホールの演奏は、終わった後、動けなくなるくらい良かったです。高崎芸術劇場で聴きたい。
堤:やっぱり弦の人数を増やしてほしい。
T:楽団員を増やすことは群響の経営にも関わってきますよね。
堤:群響の楽団員が一番多かったのは、「プラハの春」に参加した時で75人。現在は61人です。経営を支える会員ですが、今年度の前期が約800人で、後期から高崎芸術劇場となり、会費も変更になりましたが、会員数は約1割増えたそうです。それでも900人に達していない。群響は高崎市民が支えていると言われるけれど、会員全体の4割強ということです。
A:高崎市民は3~4割かなあと思っていました。
堤:私はもっと高崎市民の会員がいると思っていました。高崎・前橋で6割、県内が3割、残りの1割が県外ということです。会員を1000人程度に伸ばしたい。高校音楽教室も一般が入場できるようになりましたし、全ての公演とはいきませんが、定期会員の人がゲネプロも聞けるようになればいいと思います。
(2019年11月23日、定期演奏会終了後に高崎芸術劇場レストランにて)。
◇ 今回取り上げた群響公演 ◇
高崎芸術劇場 開館記念演奏会「歓喜の歌」
2019年9月20日(金)。開館記念委嘱作品(初演)。ベートーヴェン/交響曲第9番ニ短調Op.125「合唱付き」
指揮/大友直人、ソプラノ/クリスティン・ルイス、メゾ・ソプラノ/中嶋彰子
テノール/ペーター・ロダール、バリトン/泉良平
高崎音楽祭 群馬交響楽団特別演奏会<コバケンの巨人>。
2019年9月28日(土)。モーツァルト/ピアノ協奏曲第20番、マーラー/交響曲第1番〈巨人〉
指揮/小林研一郎、ピアノ/金子三勇士
第552回定期演奏会
2019年10月26日。グラズノフ/バレエ音楽《四季》作品67。プロコフィエフ/バレエ音楽《ロメオとジュリエット》作品64より【ラザレフ版】。
指揮/アレクサンドル・ラザレフ
第553回定期演奏会
2019年11月23日。武満徹/鳥は星形の庭に降りる。ブルックナー/交響曲第7番ホ長調 WAB107【ノヴァーク版】
指揮/井上道義
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